宮崎三昧氏の蔵書【洒竹文庫及び和田維四郎氏16・最終回】

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  • 宮崎三昧氏の蔵書【洒竹文庫及び和田維四郎氏16・最終回】

    村口 その時分の事です、なかなか売り惜しみもしましたが、良い品物を売ったのは宮崎三昧さんでした。とにかく、この人は三十年間本を売って喰べていたんですからね。 ところでこの宮崎三昧という人は、私が間接に殺したようなものなんです。この人がいよいよ身体がいけなくなって来ると、無闇に妻君の事が気にかかって来 […]

  • 青柳の珍書会の思い出【洒竹文庫及び和田維四郎氏15】

    反町 珍書会の顔触れはどんな方ですか。 村口 そうですね、大久保紫香(62)・中川徳基・林若樹・加藤直種・高橋太華(63)・宮崎三昧(64)・水谷不倒・大野洒竹・岡田朝太郎(65)・清水晴風(66)等のお歴々の方々でした。 最初から仕舞いまでつづいたのが千葉鉱蔵・大久保紫香。この大久保紫香という人は […]

  • 岩瀬文庫の設立者、岩瀬弥助氏【洒竹文庫及び和田維四郎氏14】

    井上 先刻のお話の中に出た岩瀬さんが浅倉屋へお出での時分は、大概大晦日の夜来るのでした、現金をたくさん持って懐中を膨ませてやって来るのです。そうしてズーッと品物を見て自分で欲しいものだけを別に積んで、これだけでいくらだ、と言う、二千円と言えば千円と値切る、大抵半分位に値切る。値切り方が荒っぽいです。 […]

  • 聞く度毎に売価の変わる若林君【洒竹文庫及び和田維四郎氏13】

    村口 それはまああの通り若林という人は、朝から酒を飲んでいる人で、品物を買いに行って値段を訊いても一遍でそいつを買っちゃいけないといわれていた人です。ともかく一度値段を訊いて、それはそのままにして置いて、また何か他の物を見る。そうして少し経ってから前のやつを、おいくらでしたっけねと、とぼけて訊く。す […]

  • 磯部屋と山本亡羊の蔵書【洒竹文庫及び和田維四郎氏12】

    村口 私はそのことはよく知っておりますが、これとても大体が受売りです。それより私が直接関係はしなかったが、跡始末をつけてやった山本亡羊(50)の話ですが、この山本亡羊の物を磯部屋の亀吉が京都へ買いに行ったんです。 ところが向うでは門人が本屋の主人公と知ってかなかなか売ってくれない。売ってくれないもん […]

  • 宗家の蔵書【洒竹文庫及び和田維四郎氏11】

    諏訪 今までお扱いになった本の中で、外に何か珍本というようなものを一つ……。 村口 余り多く扱っておりますので一々憶えてはおりませんが、今まででございますと、京都へ行って一万円で買いました「礼記」の巻子本というようなものでしょうか。 しかし金高の大きな物は割合に儲かりません。「藤波文書」は十万円とい […]

  • 和田氏の逝去【洒竹文庫及び和田維四郎氏10】

    村口 そうしますると、和田さんが大正九年十二月二十日にお亡くなりになりました。それと同時に私は岩崎文庫の御用も辞することになりました。 ところが和田さんの葬式がすんだ後で、高橋美章さんと私が呼ばれまして、「和田君が死んだから文庫の購入を止めるということは不合理であるから、今まで通りやって貰えまいか」 […]

  • 扇面古写経と因果経【洒竹文庫及び和田維四郎氏9】

    村口 その内で「訪書余録」に載っている「扇面古写経(44)」。これは大変高いもので、京都に居った時、久原さんからも電話で相談があって「奈良の橋井さんの入札に扇面古写経が出るから、あれを是非取るように」というお話でした。 我々は「扇面古写経」は安いとは思っていないが、マア扇子一枚ですから二、三千円のも […]

  • 宋版「論語」と外国為替【洒竹文庫及び和田維四郎氏8】

    村口 それから文求堂さんの宋版の「論語」。これでは私は和田さんに叱られたのでなく、岩崎さんから叱られた。これは文求堂が悪いのではなく、私はその品物を聞いただけで見てないから無理もないのです。 事の起こりは「今度北京で『論語』の注疏のいいのを見て来たが、四千円というので、買い切れずに帰った」という話で […]

  • 南陽堂の宋版「文選」【洒竹文庫及び和田維四郎氏7】

    村口 それから楠林君(35)の家に宋版の「文選」があった。これを称して三万五千円といっていた。 話は聞いていたが、恐れをなして行きもしませんでしたが、京都の内藤湖南さんが見えて、楠林へ行って見て来られて、鉱山懇話会に和田さんをたずねられまして「楠林の家に宋版のいい『文選』があるが、村口がどうして見逃 […]