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尊経閣善本影印集成

高精細カラー版で読む中世公家の自筆日記 『実躬卿記』の見どころ(菊地大樹・東京大学史料編纂所)

鎌倉時代の公家日記を通覧

2019年5月より刊行の始まった『尊経閣善本影印集成』第九輯鎌倉室町古記録編のうち、67冊~70冊には、鎌倉時代中後期の中級貴族、三条(藤原)実躬(1264~1326頃)の日記『実躬卿記』自筆本23巻が紹介される。『実躬卿記』はほかに、武田科学振興財団などにも自筆本が所蔵される。あわせて70巻を越える鎌倉期の公家日記自筆本が伝わるのは、国宝『明月記』(冷泉家時雨亭文庫他所蔵)など数点にすぎず、たいへん貴重であり、国重要文化財に指定されている。

現存の記事は、弘安6年(1283・実躬20歳)に始まり元亨元年(1321)正月までが知られるが、本シリーズに収められた自筆本は弘安10年(1287)から徳治2年(1307)に及び、ほとんどの巻の裏側全面に紙背文書が残されていることも見逃せない。自筆本の全体は、室町時代に実躬の子孫である正親町三条家から三条西実隆(1455~1537)が譲り受ける。のちに前田家との婚姻をきっかけとして、前田綱紀(1643~1724)により三条西文庫にあった『実躬卿記』自筆本の調査・修補が進められ、一部が尊経閣文庫に伝来するところとなった。『実躬卿記』自筆本の影印は本シリーズが初めてであり、鎌倉期公家日記の実態を手軽に通覧できるようになったことには大きな意味がある。