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出版部

高精細カラー版で読む中世公家の自筆日記 『実躬卿記』の見どころ(菊地大樹・東京大学史料編纂所)

熟練味を増した壮年期の書写

実躬はなんらかの草稿をもとに、逐次こまめに日記を清書していったようであるが、現存自筆本は必ずしも「清書本」とは断定できず、なお抹消・補入などの跡を多く残している。このような原態を刊本ですべて復元するのは難しいが、影印を見ることにより試行錯誤や推敲の過程がよく分かるようになった。

30代にかかる永仁年間(1293~99)ころからは筆跡も小ぶりで早書きに慣れてきたように見受けられ、紙背に文書の割合が増えて界線に頼ることができない場合にも、バランスよく書写を進めている。さらに、別の料紙に補記した記事や他者からもたらされた書状、儀式の参加者を報告する散状などを、一旦継がれた料紙を切断し、関連する記事に続けて挿入することも多くなる(図3)。平安鎌倉期公家日記の基本形態である巻子装独自の編集方法であり、日記の編集に長けてきた様子を影印から一目瞭然に知ることができる。その過程は紙背もあわせて検討することにより、さらに明らかとなるが、本シリーズにはもちろん全部が影印として収められている。