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コラム

料紙から見る原本調査の世界(竹内洪介・日本近世文学)

● 原本調査における『必携 古典籍・古文書料紙事典』

宍倉佐敏編『必携 古典籍・古文書料紙事典』は2011年に発行されたもので、既に四刷まで版を重ねている。湯山賢一編『古文書料紙論叢』(勉誠出版、2017年)で言及のある通り、訂正が必要な箇所も認められるが、従来古文書に限定されてきた感があった料紙研究を典籍面に広げたという点で十分に価値が認められる。

本書の内容・価値は白戸満喜子氏が『日本古書通信』2011年9月号で述べられた所見の通りだが、敢えて付言すれば『新天理図書館善本叢書』等で培われてきた八木書店の本領ともいえる高精細カラー画像がふんだんに掲載され、資料の質感を如実に示している点は特筆される。紙の生成過程から調査方法に至るまで、あらゆる情報を簡略にまとめている。

【『必携 古典籍・古文書料紙事典』と、付属の「和紙見本帳」「簀目測定帳」】

中でも本書に付属する「和紙見本帳」「簀目測定帳」は出色といえよう。実際の調査においては紙の感触も重要で、先述の斐紙・斐楮交漉紙・楮打紙は微妙に感触が異なる。一見すると同じようでも感触が異なるから、この「和紙見本帳」を携えていくことは紙質鑑定の一種の判断材料となる。従って本書に付属するこの見本帳は貴重である。敢えて瑕疵を述べるならば、本見本帳で使われている紙が小さめのサイズであることだろうか。できればもう少し大きめのサイズにし、厚漉きにしてほしい。そうすることによって、紙質の違いは一層際立つことが期待される。また、麻紙の見本は、大麻ではなく苧麻を用いている。近世以前の文献は多く大麻紙を用いており、この見本は大麻紙の鑑定には適さない。今大麻を用いて和紙を作ることは難しいにしても、大麻紙と苧麻紙の精細画像や紙面の画像を掲載してほしい。それにより、大麻紙を鑑定しやすくなることが期待されるのではなかろうか。

斐紙(雁皮紙)とその他の紙を見分けるもう一つの方法が簀目の有無である。斐楮交漉紙や楮紙を漉く際は竹簀で漉くので、均一な簀目ができる。薄様の雁皮を漉く際は竹簀の上に紗を載せて漉くために、簀目ができない。従って簀目の有無は料紙判断の重要な問題になる。また、紙はその精製度合によって簀目の間隔に違いが出る。その簀目が細かければ細かいほど紙質は緊密ということになり、紙の格は高くなる。このような観点から簀目を測定したい場合は、本書に付属する「簀目測定帳」が簡便である。