コラム
料紙から見る原本調査の世界(竹内洪介・日本近世文学)
● 広がる原本調査の可能性
現在、原本調査を行う上での環境は急速に向上し、それによって調査方法の手順も変化しつつある。
国文学研究資料館の「新日本古典籍総合データベース」を始めとしたインターネット上での資料公開はその大きな要因の一つである。有名無名を問わず、多くの文献が写真付きで公開されており、原本調査を行う前にその本文や大まかな書誌を頭に入れられる。そうすることで、現実に原本調査を行ったときには、紙背や料紙、改装の痕跡等、実見しなければわからない点を重点的に調査できる。もしパソコンの使用が許可され、インターネットに繋がる環境ならば、実際の調査先で諸本の写真と見比べられることもできるだろう。
ところで、原本調査から得られる情報についても、新しい変化が生まれてきている。その中でも注目される一つが、料紙の紙質鑑定に関するものだろう。料紙に注目した書誌学的研究は高精細デジタル顕微鏡などの理系的アプローチを取り入れて、実証的な方法論として深化しつつある。本コラムで過去に石塚晴通氏が寄稿されたように(「高精細カラー版からわかること」)、今や料紙の紙質はその資料の価値を定める一指標として見なしうる。
しかしながら、こと料紙の紙質に関しては写真だけでの判定が難しい。冒頭に挙げた写真のような鳥の子紙と呼ばれる紙の紙質について言えば、一見しただけでは斐紙(雁皮紙)、斐楮交漉紙、楮打紙のいずれ(別の可能性もある)であるか判りにくい。鳥の子は普通斐紙を指すのだが、斐(雁皮)がまじった楮紙や、楮打紙も精製具合に依って見た目が近似するのである(なお、この写真資料は楮打紙を用いている)。