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出版部

リオ本『日葡辞書』の発見(白井純・広島大学大学院准教授)

リオ本複製を刊行する意義

リオ本の文献学上の特徴は、允許状と出版許可状、補遺を欠く点でパリ本に一致するが、パリ本で異植字版となるTt折(165-168丁)はその他の本に一致している。複製本の刊行のため改めて5本を対照したが、本文はおおむねパリ本を除く諸本に一致していて独自の本文をもたず、補遺を欠くリオ本は『日葡辞書』を代表する本ではない。したがって複製本を価値あるものとするため、ブラジル国立図書館と八木書店の協力による最新技術を用いた高精細カラー複製に拘る一方、複数の著者による多言語の解説を充実させることとした。中野博士による5本対照校異、エリザ博士による王室コレクションの分散収蔵の追跡、マルケス博士によるブラジル国立図書館の歴史と『日葡辞書』の関係、岸本博士によるポルトガル語辞書史における『日葡辞書』の価値、白井による『日葡辞書』の概要とリオ本の書誌紹介であり、すべて英語訳を付し、ポルトガル原著解説には日本語も付した。

『日葡辞書』が日本語学研究の重要資料であることは言うまでもないが、日本語の資料としてだけでなく、ポルトガル語の資料として、また、ポルトガル語が連なるヨーロッパの辞書の一角を占める辞書としての意義を持つ。本書を手にとり、高精細なカラー複製画像とともに充実した解説を読むことで、『日葡辞書』がもつ様々な言語学的価値だけでなく、一冊の辞書が象徴するブラジルの激動の歴史を感じることもできるだろう。


白井純(しらいじゅん)
広島大学大学院人間社会科学研究科准教授。中世日本語史、キリシタン版。

〔主な著書・論文〕
『ひですの経』(共編、八木書店、2011年)
『リオ・デ・ジャネイロ国立図書館蔵 日葡辞書』(共編、八木書店、2020年)
「キリシタン版の刊行と日本語学習」(福島金治編『学芸と文化 生活と文化の歴史学9』竹林舎、2016年)
「キリシタン語学全般」(豊島正之編『キリシタンと出版』八木書店、2013年)

*図版出典:写真1、写真2、写真3-1、写真3-2、写真7はブラジル国立図書館所蔵・提供。