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出版部

リオ本『日葡辞書』の発見(白井純・広島大学大学院准教授)

発見の経緯

リオ本は2018年9月に、白井とサンパウロ大学のエリザ博士の合同調査中に発見された。白井は当時、サンパウロ大学大学院での講義のためサンパウロに滞在中で、エリザ博士に誘われて図書館の調査に勤しんでおり、サンパウロ市立図書館にキリシタン版『羅葡日辞書』があるという怪情報により勇んで出かけたところ複製本が貴重書だったとか、やたらと暑い日にアマゾン上流域の都市マナウスの図書館で門前払いを食らうとかは、珍しい話でもなかった。「日本語、もしくはイエズス会の本はありますか」「……?」がファースト・コンタクトなのだから無理もないのだが、そのことはあまり気にかけず、ピッカーニャ(赤身肉のステーキ)を食べ、カイピリーニャ(サトウキビから作ったカシャーサ酒のカクテル)を飲み、そういう気楽な雰囲気がブラジルらしく文献探しに飽きることがなかった。

リオデジャネイロでも、午前中は治安の悪そうなセントロ地区の王立ポルトガル図書館(ガイドブックでは「幻想図書館」)に行ったが期待した内容の本はなかった。現地ではよくあるビュッフェ形式のレストランで昼食にしたが、そこで何かに当たったらしく、当日夜から絶食することになる。午後のブラジル国立図書館はそんな調子で疲れ始めており、20世紀から既に何人かの研究者が調査した後でもあるし、貴重書室で一通りカタログを見ればいいや、というゆるい雰囲気だった。案の定、そういう本は知らないといわれたが、館内端末を使って調べても良いという。そこでキリシタン版に関連した語を打ち込んでみたところ、“lingoa”(言語)という検索語で1603年刊の“Vocabulario”(辞書)が挙がってきた。書誌情報が極端に少ないが“JAPAN”とあり(なぜかここだけ英語)、『日葡辞書』らしかった。さっそく閲覧希望を出したが、複製本が出てくるのではないかという疑念は拭えない。しかし、司書さんが持つ本のかたちを見てどうやら本物らしいと感じ、ぞくぞくしながら数丁めくってみて確信した。新たな日葡辞書の発見の瞬間である。至福の時間であった。

写真4(サンパウロのセー広場のカテドラル)

写真4(サンパウロのセー広場のカテドラル)

写真5(ブラジル国立図書館書庫)

写真5(ブラジル国立図書館書庫)