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出版部

日本古代の街路樹(中村太一・日本古代史)

4 青谷横木遺跡の衝撃

さて、街路樹について以上のような文献史料が知られていたが、「城外道路」でその植栽が実際に実物で確認された例はこれまでなかった。そうしたなかで、冒頭に述べた青谷横木遺跡の街路樹痕跡が見つかったわけである。この街路樹は、果樹ではなく柳であった。また、確認された街路樹の時期も10世紀後半で、典型的な律令駅制・駅路の時期(7世紀後半~9世紀)のものではなかった。しかし、それでもなお青谷横木遺跡の調査は、古代道路研究における画期的な成果と位置付けることができる。一つには、古代の京外道路における街路樹の存在が、京外どころか畿外において実証されたことが大きい。また、従来の古代道路調査では両側溝とその内側に関心が集中することが多かったが、今回、街路樹の根が側溝よりも外側の附属地で見つかったことで、今後は両側溝外の状況についても多くの注意が払われるようになるだろう。加えて、発掘調査では1つの発見が類例検出の呼び水になることも多いので、今後は、街路樹の存在を念頭に置いた調査・分析が増えて、例えば果樹の種子や枝葉が道路の側溝や附属地で検出されることが期待される。

さて、以上の話しは、実は5月に出版された『日本古代の道路と景観』(八木書店、9500円+税、A5判・上製・カバー装・552頁)の総論の1つとして、私が執筆を担当した「古代の道路と景観」に基づいたものである。本書は、今年で25周年を迎えた古代交通研究会が総力を結集し、官道・官衙・寺院等で構成された景観や空間構造、あるいは各地で発掘された官衙遺跡の複合的な性格を明らかにしようと取り組んだ共同研究の成果である。私自身も、上記のような街路樹の問題だけではなく、こうした官道を通行し、樹下で休息を取ったであろう民衆たちの交通やその心性の研究に取り組んでみた。やや高価なものになってしまったが、これは編集部が驚いたほど大部な本になったがゆえのことである。興味を持たれた方は、是非、手にとっていただきたい。

(2017年8月号 日本古書通信第1057号より転載)


中村太一(なかむらたいち)
北海道教育大学釧路校教授。日本古代史。
〔主な著作〕『日本古代国家と計画道路』(吉川弘文館、1996年)・『日本の古代道路を探す―律令国家のアウトバーン』(平凡社新書、2000年)・「山国の河川交通」(鈴木靖民・吉村武彦・加藤友康編『古代山国の交通と社会』八木書店、2013年)