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出版部

日本古代の街路樹(中村太一・日本古代史)

3 街路樹の果実

それでは、街路樹としてどのような果樹が植えられたのであろうか。『正倉院文書』には、梅・枇杷(びわ・以上、春の味覚)、李(すもも)・梨(夏)、棗・桃・柿・橘・郁子(むべ・トキワアケビ)・栗・野ブドウ(秋)、柑子(こうじ・コウジミカン)・胡桃(冬)、椎・伊知比古(いちい)・榧(かや・保存食)といった果実類の記載がみえる。また『延喜式』には、諸国から貢納された食料、あるいは祭祀や儀式での奉納物として、橘子・柑子・柚子・梨子・李子(すもも)・楊梅子(やまもも)・蔔子(あけび)・郁子・甘葛(あまずら)・栗子・胡桃子(くるみ)・榛子(はしばみ)・椎子・棗・木蓮子・覆瓮子(いちご)・蓮根・暑預(やまのいも)・菱子といった「菓子」が、苑池に植えられた「菓樹」として梨・桃・柑・小柑・柿・橘・大棗・郁・覆瓮子といった記載がみえる。

これらのなかには樹木には生らないイチゴ・蓮根・ヤマイモ・菱の実や、つる性の植物で街路樹に適さない野ブドウ・アケビ・ムベ・甘葛、食べるための加工に手間暇がかかる栗・胡桃・椎・イチイ・カヤといった木の実などが含まれているから、これらの植物は候補から除いてよい。となると、それぞれの土地に合わせて柑橘類や柿、梨、桃、スモモ、ヤマモモ、梅、枇杷などが選択された可能性が高いものと思われる。また、これらの果樹の栽培に向かない土地の場合は、栗や椎なども次善の策として用いられたかもしれない。