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出版部

海外のキリシタン史料を読むために 高瀬弘一郎(慶應義塾大学名誉教授)

邦訳、翻刻――その先にあるものは

フランシスコ会・ドミニコ会・アウグスチノ会の三修道会の日本布教に関する文書は、全部合わせても、イエズス会文書とは比較にならない。アウグスチノ会やドミニコ会の歴史を特に調べるのなら別であるが、当然まずイエズス会の文書の利用を考えるべきであろう。

史料はいうまでもなく、邦訳して紹介するのが最も望ましい。しかし海外の教会史料を全部、否その大部分であっても、邦訳するなどということは、現実味を帯びた話として想定することはとてもできない。それよりも、比べればまだ可能性がありそうなところに、目標のレベルを下げるべきであろう。

ローマのイエズス会歴史研究所は、イエズス会の世界的布教史に関する数多くの優れた出版物を提供してきた。日本関係の文書についても、シュッテ神父、シュルハンマー神父、そしてルイス・デ・メディナ神父等の業績として、様々な書籍が出版された。しかし残念なことに、日本関係ということでは、他の地域の布教関係文書に比して、文書の翻刻が遅れているようである。シュルハンマー神父によるザビエル文書、シュッテ神父によるカタログ(名簿類)、そしてこれはイエズス会歴史研究所の出版物ではないが、ヴィッキ神父によるフロイス著『日本史』、スペイン人史家アルバレス教授によるヴァリニャーノの『日本諸事要録・同補遺』や同じくヴァリニャーノ著『弁駁書』の翻刻、これらはすべて重要な作品ばかりである。単なる文書翻刻に止まるものではなく、それぞれの史料に関する極めて高水準の研究を伴った業績である。

キリシタン史研究にとって大変不幸なことであるが、上の諸書を作成したイエズス会内外の歴史研究者は皆死亡し、イエズス会歴史研究所から、かつてのように日本関係の研究書が出版されなくなってすでに久しい。日本布教と関わりが深いインディア関係布教文書の翻刻Documenta Indicaは、ヴィッキ神父により18巻刊行されたが、同神父の死によりそこまでで終わってしまった。文書の年代では16世紀末までである。同類の日本関係文書翻刻としてはルイス・デ・メディナ神父によって2冊出版されただけで、やはり同神父の死によって中断した。したがって日本関係はインディア関係に比して、布教文書翻刻ははるかに遅れている。

今後日本関係のイエズス会布教文書の翻刻について、上に例を挙げた如く内容的に充実した書籍の継続的出版を期待するのは、現実的ではないといわざるを得ない。キリシタン史の研究には、オリジナルのイエズス会文書を1点でも多く読むのが必須であることを思うと、もっと実現可能な方法を考えねばならない。