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尊経閣善本影印集成

影印から読み解く多彩な情報-高精細カラー版で『碧山日録』を読む-(山家浩樹・東京大学史料編纂所)

◆二種の翻刻スタイル

まずは史料翻刻の話から始めたい。史料翻刻には、二種類の方向性がある。ひとつは、字体も文字の配列も、史料を髣髴とさせるように工夫するもの。活字による印刷の時代、特殊な字体を作字し、高い技術に裏付けられた組版を行って、史料の見た目に近い版面を実現していた。電子化が進み、今では多くの文字がコードに登録され、字体の再現は容易になりつつある。反面、複雑な組版に手間と時間をかけるには、技術面でもコスト面でも難しくなっている。

 

もうひとつは、史料の見た目に解釈を加え、内容を理解しやすくするよう組版を工夫するもの。たとえば、日記であれば日付の並びかた、文書であれば日付や差出者の署判の位置など、明らかに同じ意図で記された事柄について、体裁をなるべく統一する方式である。読者は、写本など原史料そのものから直接理解するときに比べて、翻刻者の理解を前提とすることで、一段階省略して、内容の理解へと進むことが可能となる。

 

近年、影印本の刊行が盛んである。また、Webで見ることができる史料画像も飛躍的に増えた。ふたつの史料翻刻の方法のうち、一番目の必要性は低くなっている。また、翻刻をフルテキストデータとして公開することも増えている。フルテキストデータの本文は、単純な構造のほうが汎用性は高い。この点でも、解釈を加えて単純化した、二番目の翻刻方法が優位となる。