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出版部

透過光撮影で読み解く紙背文書 『外記日記 新抄』の見どころ(遠藤珠紀・東京大学史料編纂所)

透過光撮影の威力

一例をご紹介する。巻四、一紙目~三紙目の紙背には、建武4年(1337)の光厳院の院宣以下文書7通の案文が写されている。この院宣は讃岐国河津郷を宣政門院雑掌に沙汰し付けるよう命じたものである。この命令が守護から守護代、守護代から河津郷代官にと命令が伝達されていく各段階の文書で、足利政権初期の命令伝達の流れが確認できる貴重な史料である。すでに『大日本史料』建武4年10月13日条(6編4、411頁~)に収められている。

まず院宣が菊亭兼季に発給され、兼季から「菊弟殿御施行案」(2通目)が出された。この2通目は『大日本史料』では宛所を欠いている。しかし原本を見ると、ちょうど裏打ち紙にさらに補修紙を当てた部分であることがわかる。そして今回、透過光撮影を行ったところ、「謹上 武蔵権守殿」という宛所がはっきりと確認できた(図版参照)。すなわち足利尊氏の執事高師直宛である。

続く3通目は讃岐守護細川顕氏宛引付奉書であるが、日付・差出部分が傷んでおり、補修紙が当てられている。この部分も透過光撮影により「建武四年十一月十九日」という日付、および差出部分の残画が判読できた。差出は『大日本史料』では「沙弥」とされているが、「□□(武蔵)守判」と判読される。

また7通目も『大日本史料』では冒頭の一部のみ紹介されているが、従来より5行分ほど多く文字が確認できる。さらにこの7通に接続する第四紙紙背も関連史料であることがわかった。

このように従来判読困難だった日付や文章が確認できる文書がいくつも存在する。特に傷みの関係で裏打ちの厚かった巻三、巻四の紙背が窺える。本冊では、通常撮影と透過光撮影が上下に配されているので、ぜひ両者を見比べていただきたい。


遠藤珠紀(えんどうたまき)
東京大学史料編纂所助教・博士(文学)。中世朝廷制度史。
〔主な著書〕『中世朝廷の官司制度』(吉川弘文館、2011年)・『尊経閣善本影印集成72・73 外記日記 新抄・享禄二年外記日記』(解説執筆、八木書店、2019年・2020年予定)・『尊経閣善本影印集成52 局中宝』(解説執筆、八木書店、2012年)・共編『勘仲記』3~6(八木書店、2013年~2019年)・共編『兼見卿記』1~7(八木書店、2014年~2019年)・『大日本古記録薩戒記』6・別巻(岩波書店、2016年・2019年)