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コラム

オールカラーの『源氏物語』―尾州家河内本と池田本―(宮川葉子・日本古典文学)

●新たなステージ、池田本へ

池田本源氏物語軽量版では『尾州家河内本 源氏物語』の読了を何につなげてゆくのか。青表紙本・河内本・別本という分類自体が、固定的ではなくなりつつある現段階、多くの研究者による精緻な本文研究がなされている所へ、尾州家本読了だけを掲げ、どれ程の偉そうな口がきけよう。これは別なステージの問題になろう。

ただ、河内本の読了で得たのは、白黒では気にもとめなかった、写本そのものが保持している「何か」が訴えかけてくる感覚(センスだの感受性などといった、非科学的な物言いは的確ではないかもしれないが)――それこそが前述した息吹に他ならず、それを大切に扱ってみたいのである。換言するなら、息吹が運んでくれた「何か」に内在している、その向こうにあるもう一つの茫漠たる「何か」を探求してみたいという思い、それが読了後の行く手につながる目標とも言える。

その場合の対校本を、『源氏物語 池田本』(『新天理図書館善本叢書13~22』・2016年6月から隔月に順次配本中。2016年12月時点で第4巻まで配布済。全10巻・八木書店)に決めた。
『池田本』の概略を、岡嶌偉久子氏による「『源氏物語 池田本』解題―書誌的概要―」(第一巻(桐壺~若紫)巻末)を参照しつつ述べるなら次のようになる。

・池田亀鑑「桃園文庫」の所蔵であったことからの呼称。
・「二条為明筆」の極札を持つことから「伝二条為明筆本」とも呼称。
・花散里・柏木を欠く全52巻。うち、後の取り合わせ4巻(賢木・東屋・蜻蛉・手習)を除く48巻が、成立当初の基幹の巻々。
・基幹の巻々は『源氏物語大成』以来、鎌倉末期成立と認定。
・『大成』校異欄では「池」の略号で「青表紙本」として採録。
・桐壺・初音・浮舟・夢浮橋は、『大成』の底本大島本が欠巻、又は時代の下る後補等のため、池田本を底本として採用。
・鎌倉期書写の『源氏物語』のうち、成立当初の基幹巻を最多に保持する伝本であり、48巻の基幹巻すべての本文が「青表紙本」であるのは他例を見ない。

このように池田本は、青表紙本の善本なのであるが、池田亀鑑が『源氏物語大成』の底本に採用を控え、大島本に次ぐ地位でしかないと定めたのは、奥入の不備に大きく起因するという。しかしその不備を除けば、本文そのものが青表紙善本の風格を保っていることを無視はできない。

一方、『尾州家河内本 源氏物語』は、鎌倉期書写の基幹巻が41巻であった(岡嶌氏による「『尾州家河内本 源氏物語』解題」11頁)。池田本の鎌倉期書写の基幹巻48巻と、尾州家本の鎌倉期書写の基幹巻41巻を比較してみるのは、決して無駄なことではなかろう。鎌倉という時期の一致は、文字遣いなどに共通性が予測できるからである。

しかも、両者ともオールカラーの影印。書写者の息吹を感じつつ読み進むことができるであろうし、このあたりが、我々同好会が今後期待していることでもある。