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新刊納品

中野遙『キリシタン版 日葡辞書の解明』

中野遙著『キリシタン版 日葡辞書の解明』が納品となりました。

17世紀初頭に長崎で刊行された日葡辞書。見出し語数は約33,000語と、当時の日本語辞書・ポルトガル語辞書においても他に類を見ない規模をほこっています。当時の話し言葉や俗語、方言などの位相語も見出し語に立項している点が特筆されます。これは、キリシタンが布教をするに当たって、幅広い話し言葉を理解し、説教の際に日本語を話せなければならなかったためです。

中世日本語の第一級の言語資料であるだけでなく、歴史学や文化史学、ポルトガル語史、更には日欧言語交流史に於いても大きな意味を持つ資料です。

本書『キリシタン版 日葡辞書の解明』は、膨大な情報をほこる日葡辞書を利用するために必要な知識を得ることのできる本です。日本語学のみならず、版本書誌学・文献学にも貴重な示唆・新見に富む清新な論考と、訪書の静かな亢奮を伝えるコラムを収録しています。

書き下ろしコラム公開

中野 遙「凡例のない辞書――『日葡辞書』を読み解くために」

凡例のない辞書――『日葡辞書』を読み解くために(中野 遙)

下記URLから本書の目次・序章・索引が閲覧できます。https://catalogue.books-yagi.co.jp/files/pdf/d9784840622424.pdf

 

「引く」日葡辞書から、「読む」日葡辞書へ―

日葡辞書は、なぜ全体の4分の1が「補遺」なのか。
なぜ序文を2度重ね刷りしたのか。
全編ローマ字の日葡辞書で、イッシン(一親、一身、一心)を書き分けた方法は。
日本語学のみならず、版本書誌学・文献学にも貴重な示唆・新見に富む清新な論考と、訪書の静かな亢奮を伝えるコラムを収録。

①日本文化を知る一級資料の入門書として
400年前の中世日本語や生活風俗など、歴史・文化・言語を知る第一級資料・日葡辞書。宣教のために編纂された日葡辞書を利用する上での注意事項とは。一般向けの序章23ページを付し、日本語の歴史になじみのない読者が日葡辞書を利用する上での基礎知識を伝授する。

②辞書編纂の現場へのいざない
170点を超す多数の図版とともに、豊富な事例を具体的に例示。印刷活字種の違いは何を意味するのか等、詳細な原本調査をふまえ、日葡辞書がどのように編纂されたのか、当時の辞書編纂の舞台裏を垣間見る。

③全文電子化データを駆使した客観的な分析
本篇2万7000語、補遺篇6000語の語彙を収録する日葡辞書について、全文電子化された本文を統計的に分析。用例として示される日本語中、99%が辞書の見出し語として立項されていることを論証。日葡辞書の編纂方針をあざやかに解き明かす。

④新村出研究奨励賞を受賞した高い評価
本書の核となる論文類は、新村出研究奨励賞(2018年)を受賞し、すでに学界できわめて高い評価を受けている。高い学術性を保ちながらも理解しやすい文章で、日本語学研究者だけではなく、キリシタン文化史、辞書編纂史、多言語交渉史、書誌学の関心に応える必読の書。

 

目 次

序章 日葡辞書とは

はじめに

第1節 キリシタン版の辞書

第2節 日葡辞書の概要
1 現存する日葡辞書
a ボドレイ本/b パリ本/c エヴォラ本/d リオ本/e マニラ本
f アジュダ文庫写本
2 これまでの日葡辞書研究
3 キリシタン版の活字と日葡辞書の活字
キリシタン版の印刷と活字/日葡辞書のローマン活字/日葡辞書と前期キリシタン版の大文字ローマン活字/日葡辞書と後期キリシタン版の大文字ローマン活字/日葡辞書の大文字イタリック活字と大文字ローマン活字/大文字イタリック活字による大文字ローマン活字代用の背景/日葡辞書に見るキリシタン版ローマ字活字
4 日葡辞書の概観

コラム①日葡辞書を持つ図書館

 

第1章 日葡辞書の語釈

はじめに

第1節 日葡辞書の語釈の特徴

第2節 日葡辞書の語釈の構造
1 語釈構造の分類
日葡辞書本篇の語釈構造/「vel」の機能/「id est」の機能/日葡辞書本篇の「vel」と「id est」の機能/『羅葡日対訳辞書』に於ける「vel」と「id est」/訓 釈/置換語釈/日葡辞書本篇の語釈構造のパターン化
2 本篇と補遺篇の語釈構造の違い
日葡辞書補遺篇の語釈構造/本篇と補遺篇の語釈構造/本篇の訓釈と補遺篇の訓釈/補遺篇構造の不統一性

第3節 訓 釈―ローマ字で漢字表記を表すために―
1 日葡辞書訓釈と『落葉集』定訓
日葡辞書訓釈の機能/訓釈と同音異字見出し語/訓釈の通読性/訓釈の語構成依拠性/訓釈と定訓
2 定訓以外の語による訓釈
一字字音語による訓釈/二字字音語による訓釈/『落葉集』非掲載漢字に対する訓釈/定訓以外の字訓による訓釈
3 訓釈と置換語釈
訓釈と置換語釈の機能差
4 日葡辞書訓釈の機能

第4節 「id est」と「vel」 ―説明と言い換え―
1 「id est」と「vel」
「id est」のE/「id est」のD・E 逆転の不在
2 「id est」による特殊語注記の換言
「id est」と特殊語注記「P.(Poesia)」の併用/「id est」による別語種間の換言
3 「id est」とその他の注記
「id est」と置換語釈
4 『羅葡日対訳辞書』中の対称性・非対称性
5 「id est」の非対称性と「vel」の対称性

第5節 特殊語注記
特殊語注記の位置/特殊語注記の語と語釈

第6節 ラテン語注記
1 日葡辞書のラテン語注記
2 「¶」と「Vt」
「Vt」と項目/「¶」「Vt」と「id est」/日葡辞書の例示注記のエラー―「¶ Vt」の例―/『羅葡日対訳辞書』に於ける「¶」と「Vt」
3 「Item」と「Idem」の使い分け
「v.g.」と「sciliet」の使い分け(a 日葡辞書の「v.g.」/b 日葡辞書の「s.(sciliet)」)
4 「Vide」と「sic」
日葡辞書の「Vide」の形式/「Vide」の分布/「Vide」による参照先(a 参照先見出し語の立項/b 「Vide」の参照先と見出し語の選出/c 同義語を参照する「Vide」
日葡辞書の「sic」)

第7節 日葡辞書の語釈の構造まとめ

コラム②日葡辞書と節用集

 

第2章 日葡辞書の見出し語

はじめに
派生見出し語

第1節 本篇と補遺篇の見出し語
日葡辞書の補遺篇

第2節 本篇の日本語と補遺篇の見出し昇格語
1 見出し昇格語と新規収録語
見出し昇格語の本篇中使用例/本篇例文中の見出し昇格語/見出し語に立項されない本篇例文中の語/本篇例文中以外の見出し昇格語
2 本篇「vel」の見出し昇格語
3 日葡辞書の「閉じた」性格

第3節 補遺篇の重出語
1 「*」重出語の機能
「*」重出語と本篇同音異字見出し語/誤訂機能の重出語
2 日葡辞書補遺篇の重出語―「*」を持たない重出語―/同字異義と同語別形の重出語/用例(Vt)追加の重出語/補遺でも誤訂でもない重出語(a 語釈が完全に一致する重出語/b 語釈文が異なる重出語/c 事故による重出の理由)

第4節 日葡辞書の見出し語まとめ

コラム③ポルトガル・リスボンのキリシタンの足跡

 

第3章 日葡辞書の編纂方針

はじめに
日葡辞書「序文」の二重印刷

第1節 日葡辞書「序文」の印刷上の特徴
匡郭と活字の重なり/クワタの有無/活字の水平の差異/活字の詰め込み

第2節 日葡辞書「序文」の二重印刷
「序文」後半部と日葡辞書の編纂方針―編纂方針上の不備・不統一への弁明記述―/訓釈の不徹底/見出し語の欠落

第3節 「序文」二重印刷の理由

終章 キリシタン版日葡辞書の解明

参考文献
本書で引用したキリシタン文献/引用・参考文献/初出一覧

索  引


『キリシタン版 日葡辞書の解明』(単著、八木書店、2021年)