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日本古書通信

「日本古書通信」12月号(87巻12号)12月14日発売

主要目次
山岸郁子 宇野浩二の写真
宮尾與男 近世戯画としその周辺16 仕形噺絵本の戯画—安永期の笑話本
高木庄治 札幌・一古書店主の歩み 弘南堂書店高木庄治氏聞き書き(十七)移転〔最終回〕
紅花書房・苅谷博 古本屋でつなぐ東北(みちのく)5 銀糸に悩む日々—地元資料を伝える店を目指して
真田幸治 小村雪岱の知られざる雑誌表紙絵32 『若葉会第四回新作舞踊公演』パンフレット
竹原千春 古本的往復書簡8 細川洋希様へ 叢書のコンプリート
川口敦子 キリシタン資料を訪ねて9 国立文書館・科学アカデミー図書館(ポルトガル)〔最終回〕
北原尚彦 リレー連載「ミステリ懐旧三面鏡」その十五 大学からの帰路で買ったジュブナイルSF
石川 透 奈良絵本・絵巻の研究と収集39 大織冠
岡崎武志 昨日も今日も古本さんぽ146 吉祥寺「一日」
森  登 銅・石版画万華鏡183 乾隆帝の戦闘図
出久根達郎 本卦還りの本と卦188 りらら
八木書店古書部 近代日本文人の葉書29
飯澤文夫 続PR誌紙探索45
中嶋廣 一身にして二生を経る76
小田光雄 古本屋散策249 朝日ソノラマ「ソノラマ写真選書」
八木正自 BIBLIOTHCA JAPONICA300

 奈良絵本・絵巻の研究と収集39 大職冠(石川透)より

今回は、『大織冠』を取り上げたい。これまでは、御伽草子や古典文学を代表する作品を取り上げてきたが、奈良絵本・絵巻として多く制作された作品群としては、幸若舞曲の諸作品も知られている。

幸若舞曲は、室町時代に成立した演劇の一種であるが、その台本に当たるテキストは、ほぼ散文と同レベルで、演劇の台本に頻繁に現れる韻律的な箇所が少ない。御伽草子にも韻律的な所はあるので、結果として御伽草子等の散文と同じような文章になるのである。室町時代を代表する演劇である能のテキストは、圧倒的に韻律的な所が多く、そのせいか、能の台本である謡い本には、挿絵が入ることはきわめて希である。

逆に、幸若舞曲は本当にこれで演劇ができたのであろうか、と疑問が生じるほどに、散文的なのである。もちろん、織田信長が桶狭間の合戦前に舞ったという『敦盛』の「人間五十年」の句のように、皆に口ずさまれた部分もあったのであるが、演劇としては、能や浄瑠璃・歌舞伎とは、比較にならないほどすたれてしまったのである。

しかしながら、舞の本とも呼ばれる、幸若舞曲のテキストは、散文として多くの絵本や絵巻に仕立てられたのである。以前簡単に取り上げた『舞の本』の絵巻や絵本は、徳川家や松平家を中心に注文されたと考えられる、豪華な絵巻や絵本の叢書であった。叢書の場合には、版本『舞の本』で一般的な三十六作品が中心となったのであるが、少なくとも海の見える杜美術館が所蔵する『舞の本』の奈良絵本の草書には、三十六作品以外の珍しい作品も入っている。


12月号 12月14日発売 定価750円(送料79円)※ご注文はメールまたは電話、FAXで。

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