「日本古書通信」6月号(89巻6号)6月17日発売
主要目次
川島幸希 「署名本の世界」みたび12 鈴木三重吉『千代紙』寺田寅彦宛
岩切信一郎 一寸随想1 長原止水(孝太郎)と『歌舞伎』表紙絵
真田幸治 小村雪岱舞台装置目録2
折付桂子 大震災から13年、東北の古本屋(下)即売展の活況、東北から能登へ
竹居明男 昭和初年の京都「万華鏡」―冊子『現勢鳥瞰図 京都百面相』の紹介
沖田信悦 一草堂・宮田四郎の外地セドリ日誌(5)
北原尚彦 リレー連載「ミステリ懐旧三面鏡」33《新橋駅前のサンリオSF文庫》
小林信行 平田禿木をめぐる人々―鶴田久作(2)
高木浩明 古活字探偵事件帖18 叡山版をめぐる謎
田坂憲二 吉井勇の読書生活18 幸田露伴を読む(下)
石川 透 奈良絵本・絵巻の研究と収集57 義経記
飯澤文夫 続PR紙誌探索(62) 河出書房月報
三昧堂 鎌倉鶴丘と柏原鷹一郎(1)―埋もれた早世俳人(上)
小田光雄 古本屋散策267 『写真でみる日本生活図引』と『すまう』
その他
長原止水(孝太郎)と『歌舞伎』表紙絵(岩切信一郎)より
古書展の会場でその表紙を見てあまりの奇抜さに「嘘だろう」とおもった。明治34年(1901)10月の『歌舞伎』(第17号)の表紙である。目次に記す題は「不知火」とある。私にはこの絵がシュールレアリスムで、表現主義・未来派など思い起こさせる。一般的定説では日本でのシュールレアリスム導入は1929年頃、東郷青児、古賀春江等の二科展出品だというから、28年も前だ。この抽象にして前衛的ともいえる『歌舞伎』表紙の画家こそ号を「止水」とする長原孝太郎(1864~1930)なのである。
美術雑誌ではなく歌舞伎の演劇雑誌であることもシュールであるが、この『歌舞伎』第17号の巻末には「表紙は東京座の當興行の一番目海中不知火の場を止水画伯が目下欧州で行はれる模様畫體に畫かれしもの」と説明している。この表紙絵は明治34年9月の東京座演目、一番目「巷説白縫譚」(柳亭種員作・合巻『白縫譚』の劇化)にちなむ絵で、長原止水は当時ヨーロッパで流行の「模様畫體」を参照して描いたというのだ。実際のところ「模様畫體」だけでは判らない。推定するに欧州からひと月遅れで届く美術雑誌の情報に影響されたのだろう。芝居の一場面とか、名代の役者の容貌が表紙となるものと思いきや、豈図らんや、大胆奇抜な図案というのも興味深い。さらに、タイトルは、稲光を図案化してカタカナ表記の「カブキ」と読ませようとの趣向である。こうしたやり方も早すぎたモダニズムと言えよう。くるみ表紙になっており表1と表4が一枚の石版多色印刷で出来上がっている。
6月号 6月17日発売 定価850円(送料79円) ※ご注文はメールまたは電話、FAXで。
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