「日本古書通信」2022年7月号(7月14日発売)
主要記事
酒井忠康 『井伏鱒二画集』を手にして
紅野謙介 増補改訂デジタル版「日本近代文学大事典」の楽屋裏
真田幸治 小村雪岱の装幀原画2 田村てる『小うた』
伊能秀明 私見 川端康成と若山牧水の「勘違い」2
古川富章 種田山頭火文献考(8) 肉筆回覧五句集新資料紹介(中編)
細川洋希 古本的往復書簡3 竹原千春さまへ 最初の邦訳本
川口敦子 キリシタン資料を訪ねて4 アジュダ図書館2
小野純一 リレー連載「ミステリ懐旧三面鏡」その十 ≪波屋書房『世界探偵文芸叢書』は全て刊行されたのか≫
石川 透 奈良絵本・絵巻の研究と収集34 一寸法師
高木庄治 札幌・一古書店主の歩み 弘南堂書店高木庄治氏聞き書き(十二) 移転
八木書店古書部 近代日本文人の葉書24
岡崎武志 昨日も今日も古本さんぽ141 復活「一箱古本市」ほか秋津「らんだむ」所沢「SAVEAREA」
飯澤文夫 続PR紙誌探索40 『図書のしをり』
中嶋 廣 一身にして二生を経る71 山本文緒『自転しながら公転する』
出久根達郎 本卦還りの本と卦183 オイチニの歌
青木正美 古本屋控え帳433 西村京太郎「この道」下
樽見 博 国会図書館デジタルコレクション個人向けサービスを使ってみました
その他
古本屋控え帳433 西村京太郎「この道」下(青木正美)より
終戦時は陸軍幼年学校にいた。戦時下少年たちの憧れの学校で、卒業するとすぐ将校が約束されていた。その難関を楽々と越えたということや、以来さまざまの職業にいとも簡単に合格していく、西村の怜悧さには前回、私と似ているなどと書いたが、要するに家族構成だけが共通しているだけだったと、今ごろ分かった。
ともあれ、戦後の西村は、中等学校に転入することから始まる。卒業は昭和23年。この年はGHQの関与で学校制度が変わり、高校も次年度で新制高校になる。とりあえず、食っていくために西村は、アメリカの要請で出来た人事院を受けて合格する。まだ十七歳だった。教えるのはアメリカ人で、クラブが出来、彼は文学部に入る。いつか作家にと思うようになった。
人事院には十一年いた。《父は、相変わらず女にだらしなくて、その頃、他の女と一緒にいた。》母は怒って表札から父の名をナイフで削ってしまう。《こうなると、いやでも長男の責任が生まれてきて、ますます、人事院が辞められなくなってくる。》
この辺りも長男だった私は彼の気持ちが痛いほど分かる。そこへ転機が来た。この年、松本清張が文壇に登場、『点と線』を書いて脚光を浴びた。西村は早速買って読む。「これなら俺にも書ける!」《大変な錯覚である。読むのと書くのとは全く違うものなのに、それを、間違ってしまったのだが、今から考えると、その錯覚がなければ、あの時、私には、人事院を辞めて、作家になる決心はつかなかったろう》。
【お知らせ】
本誌は昨年3月号で通巻1100号を迎えました。それを記念して、八木書店古書部が30年間に亘って蒐集してきた、近代文人の葉書1700名1700枚を全て画像付きの販売目録を兼ねた記事として、2020年8月号より3年間に亘り掲載していくことになりました。講談社『日本近代文学大事典』人名索引に掲載された文人を五十音順に掲載していきます。
ネットでの公開販売はなく、本誌定期購読者のみへの販売となります。
連載を保存することで、近代文人筆跡の参考文献となります。この機会に定期購読の契約をお勧めいたします。
7月号 7月14日発売 定価750円(送料79円)※ご注文はメールまたは電話、FAXで。
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