「日本古書通信」2021年9月号(9月13日発売)
主要記事
土方正志(古本あらえみし) 古本屋三年生―「新」も「古」もない「本」屋として
高木庄治 札幌・一古書店主の歩み 弘南堂書店高木庄治氏聞き書き 創業前(2)
石田恭介(ポラン書房) ポランな日々④
柘野健次 やめられぬ古書漁り
真田幸治 小村雪岱と挿絵倶楽部②「古今戦争画譜」
古川富章 種田山頭火文献考(3)―山頭火は何人いたか(種田山頭火と阿野合歓花編)
岡崎武志 昨日も今日も古本さんぽ131 新潟県長岡市「雑本堂」
福田 博 和書蒐集夢現幻譚114 「よし原日本堤」
石川 透 奈良絵本・絵巻の研究と収集(24) 小町の草紙
出久根達郎 本卦還りの本と卦173 眼鏡
その他
茅原健「敗れし者の静かなる闘い」について、より
我が家の家系を辿ると、曽祖父から流れている旧幕臣という素性意識がわだかまっている。これは、時代錯誤といわれるかも知れない。しかし、戊辰戦争に敗れて虱だらけになって帰還した曽祖父の無念を継いだ祖父は、旧幕臣の系譜にこだわり、薩長の栗は喰まないという気概を秘めて東北に流れて、その地方新聞に筆を執り、「東北に平民政治を」という論調を掲げた。
その末裔に連なる者としてやはり曽祖父、祖父の衣鉢を継がねばならない。それに、時代は変転し、その有り様は違うが、昭和ヒトケタ生まれの者が経験した日本の敗戦は、まさに敗者であった。いくさが終った訳ではない。いくさに敗けたのである。あとがきに添えた拙句の「疎開地や米食へぬ日々敗戦忌」は、疎開地での東京者の生活は惨憺たるものであったことを伝えるとともに、その敗者の心理を戊辰戦争で敗者となった旧幕臣の心情に重ねて詠んだつもりである。
その戊辰敗者が、覇権奪還という大掛かりな企みではなく、敗者の精神的復活を期するために官学教育ではない、私塾教育による人間像を形成するという永劫不変なテーマに取り組んだ。本書は、そこに着目したのである。
静岡学問所や沼津兵学校は旧幕臣の学び舎として典型的な例だが、戊辰敗者の大鳥圭介、榎本武揚など「逆賊」が私塾に掛けた思いは強いものがあった。
とくに「この輩を養成する経費なし」と体よく文部省の役人に断られて官許が得られず、私立学校として設立された商法講習所(現・一橋大学)や工手学校(現・工学院大学)の設立については、渋沢栄一の惜しみない援助があった。
また、福沢諭吉の慶應義塾、中村正直の同人社、津田仙の学農社農学校、尺振八の共立学舎などは、旧幕臣の意気地が通底した私塾である。これら旧幕臣の学び舎は、旧幕臣のネットワークを形成して、その紐帯を強固なものとし、掲げる教育方針は、自主独立を基本としたのである。その顕著な例が、新島襄の同志社などのキリスト教による自由、博愛の教育である。ここにも本書の眼目を置いた。
B6判、258頁 定価2200円(送料180円)
日本古書通信社発売
ISBN978-4-88914-068-2
【お知らせ】
本誌は本年3月号で通巻1100号を迎えました。それを記念して、八木書店古書部が30年間に亘って蒐集してきた、近代文人の葉書1700名1700枚を全て画像付きの販売目録を兼ねた記事として、2020年8月号より3年間に亘り掲載していくことになりました。講談社『日本近代文学大事典』人名索引に掲載された文人を五十音順に掲載していきます。
ネットでの公開販売はなく、本誌定期購読者のみへの販売となります。
連載を保存することで、近代文人筆跡の参考文献となります。この機会に定期購読の契約をお勧めいたします。
9月号 9月13日発売 定価750円(送料79円)※ご注文はメールまたは電話、FAXで。
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