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出版部

馬と古代社会

佐々木虔一・川尻秋生・黒済和彦編『馬と古代社会』が納品となりました。

馬はどのように渡来し、社会に浸透したのか。馬文化の渡来、生産・飼育、交通、祭祀、儀式など、古墳時代から摂関期まで、日本考古学・文献史学を中心に、動物考古学、日本文学など、隣接する諸分野と多角的に検証しました。

所収論考の試し読みはこちらから。https://catalogue.books-yagi.co.jp/files/pdf/d9784840622479.pdf

本書の内容

①馬文化の渡来に迫る
古墳時代、東アジアを経由して日本(倭)に渡来した馬文化。馬は古代社会にどのように受容され広がったのか。中国・朝鮮半島・中央アジアなどの馬文化と比較し、日本国内の古墳などに埋葬される馬具・埴輪、地中から出土する馬の骨など、多彩な資料を分析した最新の研究を紹介。

②日本全国を網羅
中国の制度や朝鮮半島のあり方を強く意識しつつ、生駒山麓西側周辺から伊奈谷(長野県)を経て、上野地域を見通す馬の伝播の道、畿内周辺の牧、そして御牧が設置された信濃・上野・甲斐・武蔵地域、さらには北陸・東北、九州南部まで、日本列島の馬に関するほぼ主要な地域をカバー。その地域の専門家が最新の研究成果を伝える。

③古墳時代中期から摂関期までの約700年間
初期馬飼集団が出現した古墳時代中期からはじまって、馬が武力として積極的に利用された古墳時代全般、大化前代から律令制成立期の諸制度の成立、そして律令制下の牧の実態、貴族と馬の儀礼的な関係が強まった摂関期まで約700年間を対象とする。

④古代社会を支えた馬の諸相
白馬の節会(毎年正月7日に実施)など儀式に登場する馬。雨乞の祭祀に用いられる馬。神社に奉納される絵馬。和歌によまれた馬、騎馬と馬車の関係など、様々なシーンに登場する馬が古代社会にもたらした意味を多角的に考える。

⑤馬の一生
馬はどこからやってきて、何を食べ、何歳まで生きたのか。地中から出土する馬の骨などを分析する動物考古学の最新成果により、都城やその周辺の馬の一生(ライフヒストリー)や馬の出生地、そして労働環境までを明らかに。カラー口絵8ページで、馬の文物を紹介。

目次

カラー口絵(8頁)
馬形埴輪と馬具の名称(埼玉県熊谷市(伝)中条古墳群鹿那祇東古墳出土)
出土した馬の全身骨格(大阪府四條畷市蔀屋北遺跡出土)
木札に墨書された騎馬像(東京都足立区伊興遺跡出土)
土師器甕に墨書された馬(富山県高岡市下佐野遺跡出土)
土師器坏に線刻された馬(岩手県北上市八幡遺跡出土)
装飾古墳に描かれた馬(福岡県桂川町王塚古墳石室レプリカ)
エミシが使用した轡(岩手県二戸市諏訪前遺跡出土)
埋葬された馬の骨(山梨県南アルプス市百々遺跡出土)
焼印が押された馬(『一遍上人伝絵巻』巻7 東京国立博物館所蔵)
出土した焼印 「東」の文字(群馬県安中市並木遺跡出土)
描かれた芦毛と白芦毛の馬(『百馬圖』早稲田大学図書館所蔵)
平安時代の御馬(移鞍装着模型・馬の博物館所蔵)
国司の旅(『因幡堂薬師縁起』東京国立博物館所蔵)
安倍氏との激戦に挑む源義家(『紙本著色前九年合戦絵詞』国立歴史民俗博物館所蔵)
復原絵馬・出土した絵馬(日笠フシンダ遺跡)

序―『馬と古代社会』刊行にあたって―(佐々木虔一)

Ⅰ部 総  論

1 日本列島における馬匹と馬具の受容(桃﨑祐輔)
はじめに
一 騎馬文化受容過程の再検討
二 倭王権中枢部での初期騎馬文化資料
三 九州の騎馬文化
四 中国・四国地方の馬具の受容
五 中部・東海の騎馬文化受容
六 関東・東北の騎馬文化受容
結語
2 馬匹生産地の形成と交通路(諫早直人)
はじめに
一 馬の本格的渡来
二 大規模馬匹生産地の出現
三 大規模馬匹生産地の展開と馬の生産・流通
四 古墳時代における馬の生産・流通と陸上交通
おわりに
3 馬と渡来文化―古墳時代東国の馬生産―(若狭 徹)
はじめに
一 王権中枢の馬生産
二 東国の馬生産と渡来人
三 上毛野の馬と渡来文化
四 馬生産と渡来人の社会的立場
4 東国の牧遺構(平野 修)
はじめに
一 古代甲斐国の牧
二 山梨県内の牧関連遺跡発掘調査事例
三 小笠原牧について
四 小笠原牧の関連遺跡について
五 地形環境からみた東国の牧
六 土壌と飼料獲得からみた東国の牧
おわりに
5 貢馬をめぐる牧の諸相(山口英男)
はじめに
一 貢馬と牧の規模
二 牧繫飼馬の実態
三 貢進に関わる書面―牧馬帳・生益勘文・御馬解文・繫飼解文―
おわりに
6 動物考古学からみた馬匹生産と馬の利用(植月 学)
はじめに
一 産地と移動
二 食性・給餌
三 選抜と出荷
四 使役方法
五 屠殺・死亡
六 死馬の利用
おわりに
〔コラム〕馬のシンボリズム―古代トラキア人と馬―(田尾誠敏)
勇猛果敢なトラキア人
馬と王権
馬の殉葬と死生観

Ⅱ部 考古編

1 地域間関係と交通を考える馬具研究(内山敏行)
はじめに
一 生産遺跡と修理痕からみた馬具の地域生産と補修
二 馬具の流通・供給および製作者の移動
三 馬具の分布と飼養・乗馬集団―東日本の内陸に馬具と馬が多い背景―
2 絵馬(北條朝彦)
はじめに
一 絵馬の主な出土例
二 「絵馬」祭祀のあり方
おわりに
3 都城と馬(山崎)
はじめに
一 馬の解体
二 馬の祭祀
三 都城造営を担った馬
おわりに
4 エミシの馬―狄馬―(黒済和彦)
はじめに
一 文献史料より
二 考古資料より
四 気候と環境
五 上毛野氏と東北経営
六 馬と生きたエミシ
七 エミシの馬とは
おわりに
〔コラム〕焼印(高島英之)
古代の史料に見える牛馬の焼印
古代焼印の形状・構造
古代焼印の出土状況
牛馬用と調度・器物用の分別
古代焼印出土の遺跡・遺構の特色
*表 出土した日本古代出土焼印一覧
5 馬関連の遺構・遺物からみた陸奥国府(高橋 透)
はじめに
一 陸奥国府域における馬関連の遺構・遺物
二 まとめ
6 馬の飼育―群馬県榛名山テフラ下の事例をもとに―(杉山秀宏)
はじめに
一 馬歯・馬骨・馬体
二 馬蹄跡
三 馬に関係する施設
7 群馬県安中市横野台地の牧と道路(井上慎也)
はじめに
一 横野台地の牧遺構
二 横野台地の道路遺構
三 碓氷郡に設置された牧について
おわりに
8 科野の馬・信濃の馬と東山道(西山克己)
一 五世紀前半~六世紀前半の馬の埋葬
二 六世紀中頃以降の馬の埋葬・埋納・祭祀等
三 長野県内の馬具出土概要
四 馬や馬具から考えられる古東山道と東山道
9 富山市百塚住吉D遺跡の厩舎(馬小屋)遺構(鹿島昌也)
はじめに
一 百塚住吉D遺跡の厩舎遺構
二 富山県内における馬小屋(厩舎)遺構の事例(古代~中世)
三 馬小屋(厩舎)の平面形態の分類
おわりに
〔コラム〕東山道武蔵路と馬(黒済玉恵)
東の上遺跡と馬
東の上遺跡周辺の地理的環境
下宅部遺跡と馬
下宅部遺跡と周辺の集落の景観

Ⅲ部 文献編

1 古代の馬飼(加藤謙吉)
はじめに
一 古代の馬匹生産の有り様
二 フミヒトによる馬の飼養と額田馬の生産
おわりに
2 唐代の馬匹生産・管理と交通規定(河野保博)
はじめに
二 古代中国における動物管理と認識
三 唐代の馬政と管理機構
四 唐厩牧令にみる動物管理の規定
五 厩牧令と交通規定
おわりに
3 駅馬と伝馬(中 大輔)
はじめに
一 駅伝制の基本構造
二 駅馬・伝馬の設置・補充と飼養
おわりに―駅馬・伝馬の行方―
〔コラム〕推古朝の馬官(吉村武彦)
はじめに
推古朝の官司制
馬関係の人制と部民制
「馬官」とは何か
推古朝前後の部民の再編
あらためて馬官の職務
推測される新たな職務
4 兵馬と官牧―公私馬占有の日唐比較―(田中禎昭)
はじめに
一 日唐厩牧令にみる牧と兵馬の関係
二 唐の監牧と折衝府の関係
三 日本古代の官牧と軍団の関係
四 預託官馬占有の日唐比較
五 軍団・官牧における兵馬調教組織の不在
おわりに
〔コラム〕小野牧(柳沼千枝)
小野牧の貢馬
院牧としての小野牧
牧と軍事力
5 儀礼・儀式と馬(中込律子)
はじめに
一 正月七日節会・五月五日節会・八月駒牽―九世紀の年中行事における天皇の馬儀礼―
二 平安中後期の天皇の馬と儀礼・儀式
三 馬を用いる儀式と摂関家・治天
おわりに
〔コラム〕日本古代における馬の毛色(荒井秀規)
和名抄にみえる馬の毛色
白馬節会における馬の毛色
6 祭祀・祓と馬(藤本 誠)
はじめに
一 律令祭祀と馬の奉納
二 大祓・諸国大祓と馬
三 在地社会の祭祀・祓と馬
おわりに
7 六芸からみた乗馬習慣(藤田佳希)
はじめに
一 六芸の中の御芸
二 日本の御芸
おわりに
8 絵馬の起源を探る―古代史研究と民俗資料―(川尻秋生)
はじめに
一 絵馬の研究史と史料
二 「馬形絵幣」と武蔵国秩父牧の特質
三 岡山市鹿田遺跡の絵馬と猿・牛
四 民俗信仰からみた絵馬と種馬
おわりに
9 古代における馬と和歌(荒井洋樹)
一 馬はなんと鳴いたか
二 儀礼歌の中の馬―『万葉集』を軸に―
三 年中行事の歌題化と馬―屛風歌を軸に―
四 結語
10 日本古代の騎兵―中世武士の前提として―(近藤好和)
はじめに
一 文献にみる騎兵の成立
二 律令制下の衛府官
三 諸国軍団の指揮官と兵士
四 五衛府制の衛士
五 諸国騎兵
六 「うまゆみ」
七 辺境防備と軍制改革
八 恵美押勝の乱
おわりに
11 近畿の馬牧(𠮷川敏子)
はじめに
一 御馬の備蓄牧
二 諸国貢繫飼馬の備蓄牧
おわりに
12 古代の九州と馬(柴田博子)
はじめに
一 「筑紫国の馬」―百済への軍事的支援―
二 古墳時代の九州島の馬
三 「馬ならば日向の駒」
四 『延喜式』の牧
五 「筑前高田牧」
おわりに

付録 御牧(勅旨牧)等一覧
あとがき(川尻秋生)
執筆者紹介


馬と古代社会
佐々木虔一・川尻秋生・黒済和彦編
本体8,000円+税
初版発行:2021年5月25日
A5判・上製・カバー装・568頁+カラー口絵8頁
ISBN 978-4-8406-2247-9 C3021