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メディア紹介

丸山徹著『キリシタン世紀の言語学―大航海時代の語学書―』がキリスト新聞に書評掲載

丸山徹著『キリシタン世紀の言語学―大航海時代の語学書―』がキリスト新聞に書評掲載されました。

http://www.kirishin.com/book/46601/

「学術書には珍しく平易な文体で書かれており、学生との「マジ?」といった対話から始まって、キリシタン時代の言語的特徴を解説していく章も見られる。「読みやすさ」よりむしろ、「思いやり」に似たものを感じ、多少難解な箇所も乗り超えて読んでいこうという励ましを受けるのは、読者にはありがたいことかもしれない。」

是非ご一読ください。


本書は、400年前にカトリック宣教師が日本での布教のために出版した日本語の語学書について、ポルトガル語で書かれた自筆本とキリシタン版(版本)を克明に対比したもので、キリシタン語学書にポルトガル語の側から光を当て言語学的に解明したものです。

本書のポイントは以下の豊島正之先生の言葉に端的にまとめられています。

 

キリシタンの語学書を読むために 上智大学教授 豊島 正之

キリシタン語学書は、ポルトガル語で書かれている。それは、今更言うまでもないことだ。だが、そのポルトガル語は、どこの、どのようなポルトガル語か。現代でも、ブラジルとポルトガル本国のポルトガル語は、聞いてすぐに判別出来る程に違う。まして、400年前、「自分は田舎者で言葉も洗練されていない」と自認する通事ジョアン・ロドリゲスが、日本語文法を書く際、果たしてどのようなポルトガル語を用いたのか、残された自筆写本と、キリシタン版として刊行された版本のポルトガル語を、克明に対比しようとする人は、丸山徹氏以前には無かった。

キリシタン語学書は、ポルトガル語で書かれているのだから、まずはそのポルトガル語を調べねばならない。この当然至極の仕事に誰も手を染めなかったのは、偏にその余りの困難に拠る。

ロドリゲス『日本大文典』(1604-08)は、240丁・17万語から成り、ポルトガル語を母語とする者にさえ、時に難読である。今から40年以上前、まだパーソナルコンピュータというものが存在しなかった時に、丸山氏は、その難読の本文全てを、メインフレーム(大型計算機)への手入力で文字列ファイル化し、94丁を境目に綴り字法が一変している事、しかもそれは自筆本の綴り字法とも異なると指摘した。つまり、版本は、著者ロドリゲスの綴り字を反映していないだけでなく、当時の綴り字というものは、(恐らく)組版担当者の交替によって綴り字も交替し、それは特段問題にもならない、という程度の認識だった事も判明したのである。たとえ個人の「著作」であっても、キリシタン版の「個人」の及ぶ範囲には限界がある。今ではキリシタン語学の常識となったこの事実は、40年前に丸山氏が初めて明らかにしたものである。

他にも丸山氏の明らかにされた事は挙げ尽くせないが、本書所収の論文目録を一見すれば明らかな通り、その発表は寧ろ外国語・海外誌に多く、日本語の発表も、中々入手し難いものもあって、これまで丸山論文の入手難は、我々後学に共通の悩みであった。本書も、殆どの欧文論文の収録が見送られて仕舞ったので、その点では依然として悩みは続くが、日本語論文については、ようやく読者の渇を癒やし得たのではないかと思う。

キリシタン語学書を読むには、そのポルトガル語を読まねばならない。我々は、ようやく、その最良のガイドを手に入れた処である。


このように、丸山徹著『キリシタン世紀の言語学―大航海時代の語学書―』では数々の重要な指摘がちりばめられています。以下、まとめてみました。

 ①400年前の日本語を復原 ザビエルが来朝した1549年より100年間のキリシタン時代に、日本語ポルトガル語辞書、日本語文法書、文学書、宗教書など、カトリック宣教師が日本での布教のために出版した「キリシタン文献」の数々から、400年前の日本語を復原。

 ②キリシタン文献の世界史的な意味を問う ラテン語・ポルトガル語語学書が成立した背景は何か。アフリカ・ブラジル・インド・日本においてポルトガル語で書かれた現地語文法書・辞書成立の背景とは。日本以外の地域に目を向け、キリシタン文献の世界史的な意味を問う。

 ③ザビエルの真実 「語学の才能がなかった」といわれるフランシスコ・ザビエルが、実際は人並み以上の言語能力をもった人物で、質量ともに世界一の語学書を生み出す源泉となった。

 ④日本のキリシタン文献は質量ともに世界一、その理由は? 日本に残されたキリシタン文献が、世界史的に古く質・量ともに群を抜くのはなぜか、その理由を明らかに。くわえてキリシタン文献を古典として理解する試みも提示。

 ⑤幼児言語の発生は中世にあり 中世日本語に存在した「サ行子音の破擦音」の存在を復原。「おさかな」を「おちゃかな」ということなど、現代に幼児言語が発生するのは、かつてサ行子音が破擦音(「おちゃかな」)で発音されたことが背景にあったことを指摘。

 ⑥印刷された本文=本人の表現ではない 印刷された表現が著者ロドリゲス本人のものと同一はいえない(ポルトガル語正書法規範の反映とは見なせない)。その理由として、印刷の過程で、日本語・ポルトガル語をよく理解する清書者・校閲者が手を加えたためと推測。

 ⑦表記の様々 卓越した言語学者のロドリゲスであっても、音声言語を表記する際に、自国語のポルトガル語の影響を強く受けた。またキリシタン文献でなぜ「深甚」はJinjinではなくIinjinと、JのかわりにIが使われるのか。「腕」はなぜUdeと書かずにVdeとするのか。その理由を端的に説明する。

 ⑧日本以外のキリシタン文献に注目 アフリカのコンゴ語、インドのコンニカ語など、キリシタン文献として作られた諸外国の語学書としての史料を博捜・検証する。

さまざまな「常識」を覆す指摘、そして謎解きの醍醐味。ぜひとも本書をご覧になり、ご堪能ください。


キリシタン世紀の言語学―大航海時代の語学書―

https://catalogue.books-yagi.co.jp/books/view/2228
丸山徹著

本体12,000円+税
初版発行:2020年7月15日
A5判・上製・カバー装・376頁
ISBN 978-4-8406-2244-8 C3081