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日本古書通信

堀部功夫著『宇田川文海に師事した頃の管野須賀子』(日本古書通信社)

堀部功夫著『宇田川文海に師事した頃の管野須賀子』

B5判、321頁、本体3240円、送料360円

大逆事件で死刑に処せられた、ただ一人の女性管野須賀子については、小説にも描かれ、全集も刊行され、現在もその名誉回復と業績顕彰の運動が続いている。須賀子の実像を伝える資料として、荒畑寒村『寒村自伝』(昭和22)が重きを置かれてきた。

その中で、須賀子が当初師事した流行作家・宇田川文海との関係を寒村は、その過去の愛憎関係もあり、妾的存在であったと書いてきた。その後須賀子は様々な体験と、堺枯川の助言などを経て社会主義者として成長して行く。そうした初期の須賀子に関し、新たな説が表れた。大谷渡著『管野スガと石上露子』(1989・東方出版)である。

同書は、「管野スガは、宇田川文海の妾ではなかった」「宇田川文海は、廃娼や女性解放を主張した点において、当時のジャーナリズムや小説家のなかでも珍しい存在であった」と従来の須賀子像を覆した。以降、この説が無批判に後の研究に踏襲されていく。

須賀子研究には絲屋寿雄、清水卯之助などの資料調査を前提とした綿密な先駆的研究があるが、耳ざわりの良い、根拠資料の弱い新説が万延していき、30年間もその論自体の信憑性が問われないままに来た。

その中で著者は、執拗なまでに資料を収集、調査して、宇田川文海の思想的実像及び、文海に師事していた時期の須賀子の著作を掘り起こし、その実像に迫っていく。

加えて、これまでの須賀子研究を編年式に一覧化し、これまで幻の作とされていた新聞連載小説「白百合」「理想郷」を影印収録する。

昨今、学界で資料の捏造や、剽窃の問題が取り沙汰されているが、研究の基本が地味な資料調査と、それらの資料の検証にあること、過去の誠実な研究に真摯に立ち向かうことの重要さを本書は教えてくれる。


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