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日本古書通信

8月号 8月13日発売 定価720円(送料78円)

8月号 8月13日発売 定価720円(送料78円)

主要目次
特集・東北の古本屋4青森県・秋田県   折付桂子
『心』の初版は何部か   川島幸希
1945年特攻隊員を身内に持った終戦直前の市民の記録   ゆりはじめ
日本に移入されなかった「写真手帖」=『死との契約』   船橋治
椎名麟三の処女戯曲   川和孝
国会図書館デジコレで読む古文書8小野蘭山の手紙と日記   大沼宜規
夏目漱石『倫敦塔・幻影の盾・薤露行』  真田真治
本卦還りの本と卦136名は左膳  出久根達郎
その他


川島幸希望 『心』の初版は何部か
山本芳明氏の新刊『漱石の家計簿―お金で読み解く生活と作品』(教育評論社)を読んだ。「夏目漱石の文
学活動を経済的な視点から捉え直し、あわせて、死後に生じた経済的効果と文化資産としての動向を明
らかにすること」が目的の誠にユニークな本で、他の漱石研究書に類を見ない快著だと思う。本稿は同
書の提起する本質的な問題を取り上げるわけではない。「注」で言及されていることに着目し、それに
対する検証を試みるものである。
山本氏は、『漱石の家計簿』第一章の「注」(14)で『心』(大正三年、岩波書店)の発行部数について
、岩波茂雄の回想(「二千部位」、「三千刷つて三千売るのに骨折つた」)と、小林勇による岩波の年譜
での記述(「三百部位」)から、「小林は初版の部数を、岩波は生前の総部数を述べているのではないだ
ろうか」と推測している。つまり、『心』の初版の部数は三〇〇部位、総発行部数は二〇〇〇部~三〇
〇〇部ということだ。
実は、筆者は以前『心』の初版発行部数を知りたいと思い、少し調べたことがあったのだが、挫折し
たまま忘れていた。そこで山本氏の推論に触発され、この問題を改めて考えてみたい。