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書店に並ばない本

書店に並ばない本9(白戸満喜子)

以下は「日本古書通信」掲載「特殊文献の紹介」欄に紹介されたものの一部です。
入手などについては、各書末尾の発行所へ直接お問い合わせ下さい。販売を主としたものではありませんので、丁寧な対応をお願いいたします。(日本古書通信社)

今回は、災害に関する本を市販のものも含めて紹介します。

 

鎌倉幸子著「走れ!移動図書館 本でよりそう復興支援」

本書は移動図書館プロジェクトの活動記録である。構成は「序章 東日本大震災のこと、自分にとっての本の存在」「一章 なぜ移動図書館なのか」「二章 読みたい本を読みたい人へ届けるために」「三章 本を読むこと」「四章 本のチカラを信じて」「おわりに 衣食住と本と」となっている。「序章」にある「どのような本が選ばれ、なぜ読まれたか」「こんな状況の時にどんな情報が求められたのか気づく部分もあれば、本を読んで感じる楽しさや切なさは、被災地であるなしにかかわらず変わらない」「衣食住が大切なのは疑いようもない事実です。心はどうでしょう。」という記述は、書物のあり方を再考させる。特に「四章 本のチカラを信じて」は、「本は「つなぐ」もの」「情報を伝える」「人をつなぐ」「失った感情を取り戻す」「人間の根っこである文化をつなぐ」「普遍の真理を求めて」という内容で、衣食住だけではなく「心」の回復のために本が必要であることを訴えている。新書判、223頁、2014年1月。筑摩書房発行。840円。ISBN 978-4-480-68910-8(〒111-8755 東京都台東区蔵前2-5-3)
ちくまプリマー新書208

 

堀米薫著「思い出をレスキューせよ! “記憶をつなぐ”被災地の紙本・書籍保存修復士」

本書は、岩手県大船渡市で紙本・書籍保存修復をしている金野聡子氏の活動を取材したノンフィクションである。構成は「プロローグ」「第一章 大船渡の海を見て、世界へ」「第二章 大船渡にもどってからの日々」「第三章 東日本大震災」「第四章 思い出の品をレスキューせよ!」「第五章 写真の記憶をつなぐ」「第六章 おかえりプロジェクト」「第七章 紙本が受けつぐ命」「第八章 流された御覧観音」「第九章 紙の魅力と命―思いをつなぐのは、わたしたち」となっている。「紙本」とは「絵や文字が書きこまれた紙のこと。図画、手紙、作文、賞状など」である。紙本は書籍と同様にわたしたちの暮らしの中に常に存在し、日常生活の中では特別な扱いをされることが稀である一方で、長い期間保存されてきた紙本には、そこに記された絵画や文字などの情報とともに人々のさまざまな記憶をとどめる装置となり得る。東日本大震災では、そうした多くの「紙」も被災している。金野聡子氏は大船渡市出身で、イギリスで紙本修復などを学んだ後に帰郷した。東日本大震災後、写真や賞状など身近な「思い出の品」のレスキューに取り組み、洗浄された写真を貼るアルバム作りのボランティア事業「おかえりプロジェクト」にも関わった。震災から「生き残った」紙資料の救命・延命治療ともいえる作業が本書に紹介されている。また、児童書として刊行されているため振り仮名が付されており、専門知識がない大人でも理解しやすい。A5判、111頁、2014年2月。くもん出版発行。1400円。ISBN 9784774322346(〒108-8617 東京都港区高輪4-10-18 TEL03―6836―0301)

 

永幡嘉之写真・文「大津波のあとの生きものたち」

本書は、東日本大震災後に被災した海岸で撮影された生物の写真絵本である。本書では、津波後の海岸に昆虫・鳥・植物・動物がどのように戻ってきたのか、そして何故また消えていったのか、その姿を数年かけて追い続けた結果、生きものの視点から復興とは何かを読む側に問いかけている。B5横判、47頁、2015年7月。少年写真新聞社発行。1400円。ISBN 78-4-87981-514-9(〒102-8283 東京都千代田区九段南4-7-16 TEL03―3264―2624)

 

雁部那由多・津田穂乃果・相澤朱音語り部、佐藤敏郎案内役「16歳の語り部」

本書は、宮城県東松島市の高校生が、小学生5年生当時に体験した東日本大震災について語った記録である。構成は「はじめに―「3人の語り部」との出会い」(佐藤敏郎)、「第1部 3人の語り部」が「雁部那由多 宮城県石巻高校1年生」「津田穂乃果 宮城県石巻高校1年生」「相澤朱音 宮城県石巻西高校1年生」、「第2部 語りを受けて」が「山城未裕 東京都立南平高校2年生」「佐藤敏郎 元・宮城県中学校教師」、「おわりに」(佐藤敏郎)となっている。大人の視点で伝えられる記録は「大人」というフィルターを通して整理された内容となる。しかし、災害は老若男女を選ばず起こり得るもので、特定の記録だけが残ることは片手落ちである。本書中の「子どもたちの目にも、大人と同じようにあの変わり果てた町の光景が映っていたのだ」という一文が、震災の全体像を語る意義を伝えている。「僕たちが、あの日、あのとき、何が起こったのかを理解できた最後の世代で、しかも、その体験を自分の言葉で伝えられる最後の世代なんです」という言葉には語り部の高校生が抱いている真直ぐな使命感がある。その背景には東松島市内の全住宅中97%が被害を受けた「あの日」を語り出すことへの葛藤も想像に難くない。言葉にすることもためらわれる過去を、彼らが自分たちの成長へと変えていくことが出来たのはなぜか。本書は希望とは何かについて教えてくれている。四六判、220頁、2016年2月。ポプラ社発行。1300円。ISBN 978-4-591-14822-8(〒160-8565 東京都新宿区大京町22-1 TEL03―3357―2212)

 

佐々木格著「風の電話 ―大震災から6年、風の電話を通して見えること―」

本書は岩手県大槌町にある電話ボックス「風の電話」の活動について語られている。構成は「推薦のことば」(矢永由里子)、「詩「風の電話」」、「序章」「第1章 自然回帰への想い」「第2章 ある日突然の大震災」「第3章 「風の電話」から見えるもの」「第4章 「場」の力」「第5章 「風の電話」と宮沢賢治」となっている。風の電話は電話線がつながっていない電話ボックスである。臨床心理士である矢永氏は「推薦のことば」の中で「私たち専門職が、何十時間聴いても動かすことが難しい、人のこころ模様が、一瞬にして、動き出す」と驚くのが「風の電話」という「場」であり、「モノ」であり、「活動」である。亡くなった人と残された人との想いをつなぐ「風の電話」のなりたちから現在の活動までを設置者が自らの言葉で語る本書の意義は大きい。四六判、192頁、2017年8月。風間書房発行。1800円。ISBN 978-4-7599-2188-5(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-34 TEL03―3291―5729)

 

熊本県博物館ネットワークセンター編集・発行「パレアアクシア企画展関連シンポジウム 大規模災害時における博物館の役割 ―記録集―」

本書は2017年7月5日に熊本県民交流館パレアホールで開催されたシンポジウムの内容をまとめている。構成は「基調講演 「大規模災害時における博物館の役割」」(島谷弘幸)、「活動報告」(小泉蕙英・竹原明里)、「パネルディスカッション「文化財レスキューと博物館」」(司会:岡田健、パネリスト:半田昌之・稲葉継陽・岡村郷司・岩崎千夏)となっている。本書では熊本県における文化財レスキューの活動報告やパネルディスカッションの様子が記録されている。A4判、42頁、平成30年3月。(〒869-0524 熊本県宇城市松橋町豊福1695)

 


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