• twitter
  • facebook
奈良絵本私考(反町茂雄)

奈良絵本の世界へようこそ 【反町茂雄「奈良絵本私考」1】

アイルランド国の首都ダブリンに在る国立チェスター=ビーティー=ライブラリーの、日本の絵巻・絵入本の蒐集の内、特筆すべきものは奈良絵本であります。サー=A・C・ビーティーが大正6年に初めて日本を来訪した際に、これに注目して蒐集をはじめた理由の1つは、この人の多方面にわたるコレクションの内で、特に優秀として、既に世界的に評価されているペルシャ等の細密画(ミニエーチャー)との近似性に由るものと、私は想像しております。

ペルシャ、アルメニャ等のミニエーチャーと、日本の奈良絵とは、その題材のとり方において、製作の時代において、特に色彩において、甚だ相似ております。ビーティーの興味は、恐らくここに発したのでしょう。

ここは両者の近似性、或は関連について述べる場所ではありませんが、チェスター=ビーティー=ライブラリーの蔵本についての私の作成出版した同館蔵絵入本及絵本目録に掲載した200点あまりの日本古典籍の内の、中心は奈良絵本であります。それは数量的にかなり多く、質の面では特に優秀と申してよいでしょう。

私はこの様な認識のもとに、あの目録を編輯し、刊行しました。奈良絵については、既に高野辰之博士・水谷不倒翁・堀田葦男氏、清水泰・岡見正雄・赤井達郎の三教授、その他の方々の有益な研究が発表されておりますが、特にまとまった大きな考説は、まだ多くは見られない様に存じます。

筆者は古書のこのジャンルのものに、夙くから若干の興味を持ち、多年にわたって数多くを見、また渉猟して来ましたので、見聞し修得したことを整頓し、再考し、一応とりまとめて、大方の御批判を仰ぐことにしました。

所詮は「管見」の範囲を出でず、一老買のメモの一端に過ぎません。学者・先生方の御研究のいくらかの御参考にもなり、或は奈良絵本について興味をお持ちのお方々の御叱正を得ることが出来ましたら、幸せに存じます。(つづく)


■著者:反町茂雄(1901-1991)

古書籍商 弘文荘(古書肆)店主。新潟県長岡市生まれ。東京帝国大学卒業。昭和2年、26歳で神田神保町の古書店一誠堂に勤務。昭和7年独立して古書肆弘文荘を創業し、多くの善本・稀書を蔵する天理図書館の蒐書事業に関わる。著書に『定本 天理図書館の善本稀書 一古書肆の思い出』(八木書店、1982年)、『蒐書家・業界・業界人』(八木書店、1984年)、『日本の古典籍 その面白さ、その尊さ』(八木書店、1984年)、『紙魚の昔がたり 昭和篇』(編著、八木書店、1987年)、『紙魚の昔がたり 明治大正篇』(編著、八木書店、1990年)、『一古書肆の思い出』(全5巻、平凡社、1986-92年)など。反町茂雄が作成した古書の販売目録『弘文荘待賈古書目』貴重書の内容・価格がわかる貴重な書誌学の資料。ジャパンナレッジLib『Web版 弘文荘待賈古書目』で配信中。


■本コラムの初出は、反町茂雄著『本の古典籍 その面白さ その尊さ』(1984年、八木書店)です。
https://catalogue.books-yagi.co.jp/books/view/2059

「奈良絵本私考」をのせる反町茂雄『日本の古典籍』


■関連イベント

【展示会】奈良絵本を見る!

新天理図書館善本叢書「奈良絵本集」刊行を記念し、個人蔵コレクションより厳選出品の展示会「奈良絵本を見る!」を開催いたします。(入場無料)

室町、安土桃山時代から江戸中期にかけて作られた彩色絵入りの奈良絵本。その数は5千点以上になると言われています。本展では、貴重な個人蔵コレクションから30点を厳選し、黎明期から末裔期まで、およその時代順に奈良絵本の変遷をたどります。原本をご覧いただき奈良絵本の魅力をお楽しみください。

 

<会期>2019年1月10日(木)~1月26日(土)
<展示会開催時間>10時~入場17時まで
<定休日>日曜・祝日※1/20(日)は臨時開催します(19時まで)
※入場無料です。
<場所>八木書店 古書部3階
住所:東京都千代田区神田神保町1-1階