特殊製本を手がける職人技【高精細カラー版の製作現場3】
今回は、製本工程に関わる職人さんに取材し、その技に迫ります。
巻子装を体感する大判・横本
日本に伝えられた古典籍・古文書を写真撮影した影印版。「原本の様相を精確に伝える」ために、できるだけ原寸に近づけ、可読性が向上するように、大きな判型を採用しています。
原本が巻子装のとき、多くは横本を採用します。通常の書籍では長辺が背になりますが、横本では短辺が背となります。影印版のページを開いたとき、巻子装の感触が実感できるように――横本には「巻物を広げて読む感覚」を実現したいという思いをこめています。
なお、巻子装原本でも、全面に微細な訓点が施されている場合などは、横本ではなく大判の縦本を採用する等、収録原本の様態に応じた選択をします。
特殊製本を手がける職人集団
大判と横本の2つを造本の面から考えますと、「デメリット」も生じます。本文の重量が短辺である背部分にかかり、負荷が大きくなってしまいます。短辺の背だけでは本文を支えきれず、場合によっては壊れてしまうかもしれません。
むろん、学術書である以上、図書館などでの長期保存・連用に適していなければなりません。
大判・横本による可読性の向上に、堅牢さを加えること――この二つを実現するのが、和綴じ製本などの特殊製本を手がける職人集団・博勝堂(東京都・新宿区)です。
手作業の糸かがりと厳選した素材
糸かがりとはページ順に折られた印刷物(折丁)を糸で綴じること。簡易な「アジロ綴じ」や「無線綴じ」に比べて手間がかかりますが、堅牢さを重視し、八木書店の本は「糸かがり」を採用。通常の糸かがりは機械処理ですが、横本の場合はすべて職人による手作業となります。
表紙の材料は、高額ですが大変丈夫な本クロスを厳選して使っています。見返しの材料も強度の高いものを厳選し、表紙と本文とを強固に接合し、本の耐久性を保持します。本を収納し保護する函は、印刷した紙を貼り付けた貼函となります。
堅牢かつ長期保存に耐える本作りを実現するために、造本仕様にこだわることはとても大事です。
堅牢さは「背固め」が命!
まずはボンドで下固めをします。一冊ずつ、機械に手作業でセットし、ボンドをつけて背を固めます。さらに本の強度を保つため、「三枚貼機」という機械で、以下の作業を行います。
①接着剤のニカワを背に薄めに塗り、寒冷紗(コットン)を貼る
②ニカワを塗り、しわがみを貼る
③さらにニカワを塗り、地券紙(ちけんし)を貼る
仕上げに「④花布(はなぎれ)」を付けます。これは見た目をよくするための飾り布です。見本帳から装丁にあった絵柄・色を選びます。
横本での「背固め」の作業は、機械での自動化が難しく、通常の書籍よりも3~5倍の時間と労力がかかります。
(出版部・K)
LINK:
株式会社 博勝堂
http://www.hakushowdou.com/
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・新天理図書館善本叢書
・尊経閣善本影印集成