• twitter
  • facebook
古記録拾い読み

安永2年(1773)加賀藩前田家江戸屋敷の歌舞伎番付【古記録拾い読み4】

かぶき者(傾奇者、歌舞伎者)とは、戦国時代末期から江戸時代初期…特に慶長年間から寛永年間(1596~1643)にかけて、江戸や京都などで流行した…異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのことをいいます。当時、異形・異様な風体が「かぶきたるさま」として流行したようです。加賀百万石の礎を築いた初代の利家や、「花の慶次」ですっかりメジャーになった利太も傾奇者として著名な人物でした。

慶長8年1603年(慶長8年)に出雲阿国が、「ややこ踊り」を基にして「かぶき者」の風俗を取り入れた「かぶき踊り」を創めると、たちまち全国的な流行となり、のちの歌舞伎の原型となりました。かぶき者の文化は慶長期にその最盛期を迎え、以後は公儀や諸藩の取締まりが厳しくなり、衰退していきます。しかし、その美意識は歌舞伎という芸能に受け継がれていくのです。

さて、今回取り上げるのは加賀藩前田家江戸上屋敷(現在の東京大学本郷キャンパス)で興行された歌舞伎です。

●『太梁公日記』安永2年(1773)5月21日条(史料纂集古記録編 第164回配本 太梁公日記4 所収、53頁)には、次のように記録されています。

五月廿一日、於表舞台歌舞妓〔伎〕狂言番付
ことふき前狂言

けんゑほし       中村徳三郎
一、ゑひす       山下吉蔵
一、大黒        沢村瀧蔵
一、長者        沢村友五郎
一、若者        坂東嶋蔵
一、若者        沢村春十郎

同二幕目

一、多門若丸      市川団十郎
一、さめかい兵太    大谷国治
一、宇佐美左衛門    市川文蔵
一、権のかミ兼房    中村友十郎
一、も世        山下門四郎
一、会沢六郎      金村幾蔵
一、団扇売おしけ    岩井磐〔繁〕八
一、金子ノ十郎     中村茂十郎
一、半沢六郎      中村勝五郎

〈十帖源氏〉物くさ太郎

初段

一、高富久吉      沢村淀五郎
一、福嶌主水      沢村喜十郎
一、あしや姫      芳沢幸之助
一、腰元小蝶      中村芳松
一、撫しこ       中村瀧三郎
一、足軽十内      中村茂十郎
一、犬上団八      坂田団八
一、佐々木弾正     藤川判五郎
一、佐々木よし丸    中村芳松〈二やく〉
一、佐々木よしかた   三国富士五郎
一、福嶌左近之進    沢村長十郎
一、名古屋山三     坂東三津五郞
一、お国御ゼん     山下金作
一、不破伴作(左衛門カ)市川団十郎

二段目口切り

一、福嶌左近之進    沢村長十郎
一、犬上団八      坂田団八
一、かつほうの六    沢村喜十郎
一、水茶屋おしけ    岩井磐〔繁〕八
一、下女小よし     山下門四郎
一、むすめ小みつ    坂田富五郎
一、撫しこ       中村瀧三郎
一、善五郎       沢村淀五郎
一、狩野哥之助     中村柏木
一、名古屋山三母    高(富)沢辰十郎
一、猪熊門兵衛     中村助五郎
一、金八女房宮城野   中村のしほ
一、名古屋山三     坂東三津五郞
一、金魚売金八     中村十蔵
一、物くさ太郎     嵐三五郎

三段目口切

一、佐々木弾正     藤川判五郎
一、犬上団八      坂田団八
一、庄屋次郎作     坂東利根蔵
一、下女おたま     芳沢幸之助
一、おなしく小よし   山下門四郎
一、撫しこ       中村瀧三郎
一、狩野哥之助     中村柏木
一、長谷部雲谷     大谷広右衛門
一、利休女小枝     中村のしほ〈二やく〉
一、物くさ太郎     嵐三五郎
一、利休女房しからみ  山下金作
一、奴岡平       市川団十郎
一、山三女房葛城    中村富十郎

与〔四〕段目

一、よし若丸      中村芳まつ
一、犬上団八      坂田団八
一、花かたや曽平次   富沢江戸織
一、すが部(市カ)   松本大八
一、石塚玄蕃      笠谷〔屋〕又九郎
一、金八娘小みつ    坂田富五郎
一、やりてみや     中村のしほ
一、名古屋山三     坂東三津五郞
一、金魚うり金八    中村十蔵
一、お国御セん     山下金作
一、不破伴左衛門    市川団十郎

浄るり       竹本民太夫
三味セん      野沢富三郎

風りう(流)石橋の段

一、あや姫       中村徳三郎
一、早咲        坂田富五郎
一、岩つね       山下門四郎
一、かふろしのふ    中村芳松
一、かつまがり平太兵衛 山下吉蔵
一、猪また文太左衛門  坂東利根蔵
一、わか葉のまえ    中村瀧三郎
一、ふセやの助     中村茂十郎
一、ねん八の大弥太   沢村淀五郎
一、巴の丞       嵐三五郎
一、けいセい奥州    中村富十郎

浄瑠り〔璃〕    富本大和太夫
同         富本常太夫
同         富本照太夫
三味線       宮崎秀五郎
同上てうし     宮崎庄五郎

祝言おとり
千秋万歳楽

tairyoukou54-55tairyoukou52-53

安永2年(1773)5月21日、江戸の前田家上屋敷では、「ものぐさ太郎」が演じられたことがわかります。

このときの市川団十郎は、荒事の他、実悪、女形など様々な役柄をつとめた五代目市川団十郎(1741~1806)で、江戸歌舞伎の第一人者としてその屋台骨を支えた人物です。

また、坂東三津五郞は、容姿に優れ和事や実事、女方、武道、半道、所作事など幅広く万能な役者だった初代坂東三津五郞(1745~1782)でしょう。 中村富十郎(1719~1786)は、若女形を本領とし、舞踊には天才的才能を示した役者でした。

『太梁公日記』は、加賀藩前田家11代藩主前田治脩の自筆日記。江戸時代中期の大名当主の日記として、数少ない貴重な史料です。

(出版部・M)


*コラム内で取り上げた古記録の詳細、お求めはこちらから!

m9784840651646■史料纂集古記録編 第164回配本 太梁公日記4
https://catalogue.books-yagi.co.jp/books/view/755

 

 

 

 

 



hiroiyomi-eyecatch2本コラムでは、古記録を読むことで浮かび上がる様々なモノ・コトを、八木書店の史料纂集担当編集者Mが紹介します。