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古記録拾い読み

元禄大地震【古記録拾い読み2】

前回に続き、今回も地震の記事を……

元禄16年(1703)11月23日未明、関東地方を襲った「元禄大地震」の記事を紹介する。その震源は、相模トラフの房総半島南端にあたる千葉県の野島崎で、安房(千葉県南部)や相模(神奈川県)の最大震度は、7と推定されている。大正12年(1923)に起きた、いわゆる「関東大震災」タイプの地震である上に、震源の分布図も類似することから、「関東大震災」以前の相模トラフ巨大地震と考えられている。地殻変動の規模は、関東大地震よりも大規模で、海底が隆起して段丘を形成した元禄段丘が出現し、野島岬は沖合の小島から地続きの岬に変貌したという。

●『楽只堂年録』元禄16年(1703)11月23日条
(史料纂集古記録編 第176回配本 楽只堂年録4所収)

今暁八つ半時、希有の大地震によりて、吉保・義里、急て登城す、大手の堀の水溢れて、橋の上を越すによりて、供の士、背に負て過く、昼の八つ時過に退出す、夜に入て、地震止されは、四つ時、吉保、登城して宿直す、

20161011164344

楽只堂年録4 元禄11年11月23日

 

とあり、午前4時ごろ、未曾有大地震よって、柳澤吉保父子は急ぎ江戸城に登城。江戸城の大手門付近の堀の水が溢れる、橋を越えてしまったので家臣に背負われての登城であった。午後2時過ぎに退出したが、夜に入っても余震は収束せず、午後10頃吉保はふたたび登城して宿直した、と記録されている。

記述は続き、

今暁の地震、武蔵・相模・安房・上総・下総・伊豆・甲斐、七箇国にかゝれり、其中にてもわきてつよきは、安房・相模にて、相模の小田原は、城崩て、火起り、寺院・民家、残すくなく亡ひぬ、

けさがたの地震は、武蔵・相模・安房・上総・下総・伊豆・甲斐、七箇国に被害が及び、その中でも、ひときわ震れが強かったのは、安房・相模で、相模の小田原は、城が崩れて火災が起こり、寺院や民家が壊滅的な打撃を受けた、とある。さらに、

同時、大波、東南の方より、安房・上総・下総・伊豆・相模の海浜に入りて、民家を漂流し、田畠を蕩亡す、所々よりの注進左に記す。

とあり、(大地震)と同時に大津波が、東南方面から発生し、安房・上総・下総・伊豆・相模の沿岸に押し寄せ、民家を押流し耕作地を壊滅させたとして、各地の被害状況を克明に記述している。
そこには、

●江戸城下の被害の分布状況

●大久保忠増小田原城下損亡分 ・同相模国領損亡分 ・同伊豆国領損亡分
・同駿河国領損亡分 ・同小田原領内浦方損亡分 ・同小田原領死者他損亡分
・同湯坪損亡分 ・箱根道、東海道他周辺の通行不能状況
・大久保忠増領代官支配地の損亡分 ・同鎌倉切通七口破損状況
・同代官支配の伊豆大島破損状況 ・伊豆権現領破損状況 ・相模国大山伽藍破損状況

●稲葉正辰知行所被害状況 ●稲葉正直知行所被害状況
●甲府城及び地下の破損状況、甲州郡内領損亡分
●阿部正喬武蔵国領損亡分、同相模国領損亡分 ●阿部正明上総国領損亡分、同伊南領損亡分
●松平政幸上総国領損亡分、同伊南領浜方領損亡分 ●植村正朝知行安房、上総湊辺損亡分
●山内豊清上総国損亡分 ●前田孝始安房国知行所損亡分 ●本多忠能安房国知行所損亡分
●松平定相安房国知行所損亡分 ●京極高規安房国知行所損亡分
●酒井忠能安房・相模国知行所損亡分 ●米津田賢代官上総国知行所損亡分
●阿部正房知行所上総国夷隅郡損亡分 ●阿部正員知行所上総国夷隅郡損亡分
●本多正芳安房国朝夷郡他損亡分 ●坪内定鑑知行所上総国一松村損亡分
●石野範恭知行所上総国二郡の損亡 ●内藤正興組谷川宣就知行所の損亡
●松平勝忠知行所上総国内の損亡 ●北条氏澄知行所安房国長狭郡の損亡
●中山直房知行所上総国武射郡の損亡 ●仙石久治知行所上総国内の損亡
●飯田直勝知行所上総国内の損亡 ●川口宗直知行所安房国四箇村の損亡
●大久保春信知行所上総国安房国各所の損亡 ●松平忠章組土方勝直知行所の損亡
●北条氏澄組水野重上知行所の損亡 ●松下重直知行所の損亡 ●酒井忠成知行所の損亡
●酒井忠胤知行所の損亡 ●酒井忠興知行所安房十三箇村の被害状況
●保田宗郷与力知行所の損亡 ●林忠和与力知行所の損亡 ●安房国新義真言寺院の損亡
●武蔵、安房、上総、相模、伊豆の損亡合計 ●町野某代官所の損亡 ●清野貞平代官所の損亡
●小長谷時庫代官所の損亡 ●武蔵、上総、下総、安房、甲斐の損亡合計
●伊奈忠順代官所の損亡 ●今井兼豊代官所の損亡 ●武蔵国小長谷時庫代官所の損亡
●町野某武蔵国代官所の損亡 ●清野与平上総国代官所の損亡 ●上総国樋口家次代官所の損亡
●上総国比企雨宮代官所の損亡 ●上総国能勢某代官所の損亡 ●上総国河原正真代官所の損亡
●下総国清野与平代官所の損亡 ●下総国町野某代官所の損亡 ●安房国樋口家次代官所の損亡
●安房国清野与平代官所の損亡 ●甲斐国平岡和由良久代官所の損亡
●安房国五代官所の損害総計 ●武蔵国今井兼豊代官所の損亡

と、各地の甚大な被害が詳細に記されている。これら、柳澤吉保の許に入った情報によれば、死者6,700人、潰家や津波による流失家屋は、約30,000軒となっている。

以上のように『楽只堂年録』は、元禄16年の「元禄大地震」の被害状況を具体的に知りうる良質の史料として、各自治体でも利用されている。最近では、千葉県の津波対策のハザード・マップや内閣府(2013)がまとめた「1703 元禄地震」などにもデータが集約されている。

(出版部・M)



hiroiyomi-eyecatch2本コラムでは、古記録を読むことで浮かび上がる様々なモノ・コトを、八木書店の史料纂集担当編集者Mが紹介します。

 

 

 


 

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