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紙魚の昔がたり

書画方面へも進出 【紙魚の昔がたり30】

(八木) さきほどお話したように、特価本の他に美術品・書画を、現在美術倶楽部の会員としてやっておりますが、美術をやりだしたのも、つまりはデパート展で売上げを伸ばす方便でした。松坂屋にしろ他のデパートにしろ、初めは六日間の総売上げが四千万とか五千万ですんだのが、次の年には一割増し、二割増しを求められて、後になると、一億円台を越すようにと希望される。私たちにとっては、本だけでは、それだけの金額にすることは非常に困難なので、つい段々に美術の方に手を出すようになりました。
 (反町) 前後三回にわたって、いろいろ面白いお話をきかせていただいて、どうもありがとうございました。要約しますと、八木さんは、『古書通信』から出発されて、戦後の混乱期に古書に移って、主として明治物方面で大いに活躍し、そのあと特価本業界に新風を吹きこむと同時に、事業的に大きな成果を収め、かたわら出版でも堅実な歩みを進め、現在は明治文学方面のものを盛んにやるとともに、余力の若干を割いて、美術品、とくに文士・名士の書や書簡・絵画に向けておられるということのようですね。
 (八木) いや、それほどでもありませんが……。
 (反町) 二世の壮一さん、朗(あきら)君の二人が、あとを分担して、しっかりやっているようですし、しあわせな人生の一つの縮図のようなものですね。
 (八木) イヤー、イヤー、どうも(笑い)。

〔出典〕反町茂雄『紙魚の昔がたり 昭和編』(八木書店、1987年)より。オンデマンド版としてご購入できます。