• twitter
  • facebook
紙魚の昔がたり

名家自筆本は八木書店の特色 【紙魚の昔がたり27】

(八木) この時には大入札会目録に全部底値を入れて、入札方法を説明しています。逍遥・紅葉・露伴・鷗外・子規・漱石・鏡花・一葉・節・左千夫・藤村・独歩・荷風・龍之介・茂吉・潤一郎・光太郎・康成・西田幾多郎等々の原稿・書簡の良い物が驚くほどたくさん出ました。特別出品として、「明治大正文学名作初版コレクション」一七八点一括入札底値五八〇万円、「幕末志士・明治元勲政治家等自筆書簡類」二〇八点一括入札底値一三八〇万円也、などが出ました。
 この時にはある知名な方に紹介の名刺を書いて頂いて、財界・政界方面など新しい分野に目録を持って回りました。
 明治物の話に関連して、その前後に私が関係した企画は、読書週間の記念催事として、明治・大正・昭和の文豪遺墨展というのを、日本橋の三越で、三十五年の十一月一日から六日間やりました。世話人代表が尾張真之助さんで、出版界の人々や読書推進運動協議会という団体の後援でした。この時には、もちろん全部非売ですが、ずいぶんいいものが出品されましたね。これが明治百年祭の先駆みたいな格好になっているわけです。
 (反町) 明治もの屋さんとしての、八木さんの今日までの動きを通観しますと、一つの顕著な特徴は、名家の自筆のものが多かったということですね。初版本よりも自筆本をよく売買された。珍しいものを発見されたことも多い。私も自筆本好きで、たくさん取り扱いましたが、八木さんも断然多い。時代やさんとか玄誠堂さんなどのお方々は、明治物ではわれわれよりもズッと先輩ですが、この方々は版本、とくに初版本や文学雑誌の類が主で、自筆本は比較的に少ない。八木さんの場合は、偶然とはいいながら、初めから、我楽多文庫の原稿本の落札入手から出発して、その後もズーッとつづいている。今でもそれが主力のように見えますから、縁があったんでしょうね。一葉の原稿自筆本なども、誰れよりも多い。一つの功績です。