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紙魚の昔がたり

組合が古書相場公開禁止 【紙魚の昔がたり7】

(八木) 反町さんとか、文求堂さん、その他大勢の方が大変心配して下さって、いろいろ尽力応援して下さった。地方の同業からずいぶん沢山手紙や電話で激励して頂いたんですが、結局組合は、総会にもかけずに、決議一本で、公開を禁ずという断を下しちゃった。仕方ないから、東京の相場欄の部分は、相場だけを白紙にした号を作り、発送したわけです。事情をよく知らぬ地方の人が驚いて、激励のハガキ・手紙を続々と送って来ました。

(反町) あれは何年でしたかね。

(八木) 十一年十月九日付です。創業して三年目です。

(反町) これは八木さんの大厄難でしたね。東京の古書の相場を知らせる、というのが最大の眼目で売り込んだ雑誌です。あの頃は、業界の相場は業者の大事な秘密で、東京の業者の間では、それをお客様や地方の業者に知らせるなんていうのは、もってのほか、という考えの人が多かった。そういう面もいくらかあるでしょうが、外国では、そういうことを堂々とお客様にも発表している。大きな目で見れば、全国の業者がみんな便利をし、喜んでいるし、その人々の営業活動が活発になれば、回り回って東京の業者にもいいことがある。第一、営業が公明正大になっていいから、どうか理解をしてほしい、と必死に理解を求めました。

八木さんはもちろん一生懸命でありますが、私も一生懸命だった。それから本郷の文求堂さんという、中国書専門の有力者でありましたが、この人も熱心に応援してくれたのですが、当時の神田の通りのおえら方の大部分が禁止説の味方。結局、仕方がない、相場欄はやめよう。やめたら雑誌の売れ行きは減るが、記事にうんと魅力をつけて、カバーしてやってみよう。面白い新しいニュースを豊富に集めることで、人気をつないでいこう、と話し合いました。八木さんは若い頃から非常によく働く人でありましたが、それからまた大馬力で働く。有名人や図書関係の魅力のある先生たちの話や原稿を集めるのに、昼夜兼行で奔走。その努力で、どうやらこの大厄難を乗り切りました。

(八木) 皆さんのおかげです。

(反町) いくらかそれもありましょうが。

 

「紙魚の昔がたり」公開済みタイトル一覧

 


関連書

m9784840634632反町茂雄編『紙魚の昔がたり』昭和篇

本コラムの全文をはじめ、弘文荘主・反町茂雄らが12人の古書店主から聞き出した古書業界の激動史。
https://catalogue.books-yagi.co.jp/books/view/2045

 

 

 

 

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