日本古書通信
日本古書通信 4月号 4月14日発売
4月号 4月14日発売 定価720円(送料78円)
4月号主要目次
梅田書房版『月と狂言師』 山中剛史
『東北大勢論』がヒットした 茅原 健
江戸戯画の顔絵―百面相・百色面相・顔尽くしの世界 宮尾與男
廃娼・女性解放主張者文海説の検討 堀部功夫
続・浮世絵の見所勘所4(岩切信一郎校訂) 遠藤金太郎
本卦還りの本と卦132 井伏の文章術 出久根達郎
出久根達郎「井伏の文章術」より
これは小説だが、「増冨の渓谷」という、四百字原稿紙で十二枚の短編がある。
釣の名人の佐藤垢石老人と、題名の場所に出かけた折の出来事をつづっている。垢石は、井伏の釣の師匠である。読みながら、昔読んだ作品の一つだと、すぐに気がついた。しかし読み進めていくうちに、 記憶にある情景と異なるのである。
二人は本谷川の上流にある鉱泉宿に一泊する。翌朝、早く川しもに向かって引き返す。
急に谷が拡がって、道ばたに見上げるようなクルミの木があった。三人で抱えても抱えきれないような大きさである。昨日、二人で歩いてきた時には、全く気がつかなかった。『私は不可解なやうな気持がした』。垢石も立ち止まって不思議そうに見ている。「私」は垢石に話しかけた。このセリフが、井伏らしい。