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新刊納品

日本書紀の誕生―編纂と受容の歴史―

来る2020年、日本最初の「正史」日本書紀は、編纂から1300年を迎えます。

この節目の年を目前にして、日本書紀の編纂はどのようになされ、またその後1300年もの間、どのように読み継がれたのかを学問的に再検証したのが、本書『日本書紀の誕生―編纂と受容の歴史―』になります。

「1300年にわたる編纂と受容の歴史」というテーマは、時代を超え、分野を超える研究になります。そこで、多彩な分野の研究者21名が一同に介し、最新の研究成果をふまえ、この難問にそれぞれの専門分野からチャレンジしました。もちろん全編書き下ろしになります。

このように本書では、多彩な分野、さまざまな時代の専門家が日本書紀の謎に挑みました。詳しくは本書をひもといていただくとして、「ちょっとだけ」収録した各論文・コラムのエッセンスをお伝えいたします。

 

カラー口絵「日本書紀の古写本」

日本書紀の古写本8種(田中本、岩崎本、前田家本、弘安本、乾元本、図書寮本、熱田本、大垣本)を厳選し、カラー図版を掲載、あわせて見所をおさえた解説を付す。中でも近年発見された現存最古(平安時代前期)写本の一つ、大垣本(巻一上、神代巻断簡)を新撮影し掲載。さまざまな時代に様々な人の手で書き写された日本書紀の古写本を一望できる、今までなかった贅沢なカラー図版集。

 

Ⅰ部 総論―日本書紀研究とは何か―

1 荊木美行「日本書紀研究の現在」
正式名称は「日本紀」か、それとも「日本書紀」なのか。誰がいつから編集したのか……。近年までの膨大な研究史を整理し、著者独自の見解を披露。現在の日本書紀研究の到達点と残された課題を浮き彫りにする。

2 石上英一「日本書紀の写本」
これまで数々の写本を実見・調査しその成果を発表してきた、著者による日本書紀写本論の集大成。各写本の伝来過程、特徴、研究環境を明快に解説。写本原本からではなく、影印(写真複製)本からどのようなことがわかるのか、新たな「写本学」のアプローチから日本書紀に迫る。

コラム 是澤範三「海外の日本書紀研究1―台湾―」
近年盛んな台湾などからの元留学生の研究の成果・動向を提示し、台湾に存在する日本書紀の写本へも目を向ける。在外研究者や海外研究者の研究動向を知る文献検索サイトの紹介も有益。

コラム 赤羽目匡由「海外の日本書紀研究2―韓国―」
近年盛んに韓国で出版されている日本書紀の訳注本、その成果を紹介。韓国人研究者による日本書紀研究の現状を端的に叙述する。

 

Ⅱ部 日本書紀の前史

1 関根淳「天皇記とその前後」
推古朝でつくられた天皇記の内実とは。専論のない天皇記に注目し、その内容・文体といった特徴のみならず政治史上の意義を明らかにした論考。知られざる日本書紀成立の前史に迫る。

2 遠藤慶太「古事記と帝紀」
古事記は多様な在り方で伝わった帝紀の一つとして編集された、という古事記に対するきわめて明快な位置付けを提示し、日本書紀との相違を解明。今後、古事記と日本書紀の関係を論じる際の必読文献。

3 河内春人「日本書紀系図一巻と歴史意識」
日本書紀に付されながら現存しない系図一巻とは。系図一巻が喪失されたことの意味に着目し、日本古代の歴史意識の変遷をたどる。従来の系図一巻の理解に一石を投じる論説。

4 廣瀬憲雄「百済三書と日本書紀」
日本書紀に引用された、百済新撰、百済記、百済本記という、いわゆる「百済三書」をてがかりに、日本書紀の編纂事情にせまる。既存の研究の問題点を丁寧に整理し、今後の研究の在り方を指し示す。

コラム 沖森卓也「日本書紀の語法―和習―」
日本書紀の漢文は変体漢文なのか純漢文なのか? 日本書紀の「和習」とは何か。その「和習」を手がかりに、日本書紀をα・β群に二分しその作者を比定した日本語学者・森博達説の重要性とは? 素朴な疑問に日本語史の重鎮が明快に答える。

榎村寛之「記紀神話・伝承における素材・文学性・政治性」
八岐大蛇神話、伊勢神宮成立伝承、浦島子伝承などを題材に、王権や地域の伝承がいかに日本書紀の神話という形で文字化され、結実したのか。日本書紀が語る物語と歴史とは何か。

 

Ⅲ部 日本書紀の成立

1 細井浩志「日本書紀の暦日について―雄略紀を中心に―」
日本書紀の暦記述に着目。日本書紀以前の暦表記の時期的変遷と、暦表記が示す日本書紀の編纂過程とはどのようなものだったのか。年月日記載から記事の編纂過程・信憑性に迫る。

2 髙田宗平「日本書紀神代巻における類書利用」
数々の資料を集めた類書を参考に編纂された日本書紀。神代巻の冒頭部分に注目し、「藝文類聚」を参照したとする通説に再考を促す。日本書紀編纂の実態に具体的に迫る。

3 市大樹「木簡と日本書紀の用字」
後世の知識で文字を置き換える潤色の存在から、その信頼性が問われる日本書紀だが、その潤色の論理とはいかなるものであったか。出土文字資料(木簡)を手掛かりに日本書紀を再考する。

4 笹川尚紀「記事の形成―允恭紀の中臣烏賊津使主伝承を中心に―」
允恭紀にみえる中臣烏賊津使主伝承記事を手掛かりに、日本書紀の編集・伝承造作の過程の一端を解明。日本書紀の叙述に藤原氏が与えた影響にも目を向ける。

5 久禮旦雄「神話の形成と日本書紀の編纂」
神話の統合という観点から日本書紀に至る神話の形成過程を論じるほか、対外交渉に日本書紀の編纂の契機を求める従来の研究に再検討を試みる。著者の語る日本書紀成立史とは。

コラム 関根淳「仮名日本紀」
「仮名日本紀」とはいつ、誰が、如何なる形式で著したものなのか。日本書紀の講義である日本紀講書との関係から「仮名日本紀」の内実を論じる。

長谷部将司「日本紀講書と受容―八世紀における日本書紀の普及について―」
奈良時代から平安時代にかけて行われた日本書紀の読書会「日本紀講書」の開始事情と時代背景を考察。古代における日本書紀の受容・浸透の過程の実態に斬り込む。

 

Ⅳ部 日本書紀の受容と展開

1 是澤範三「日本書紀古訓論」
日本書紀の古写本に書き込まれた読み仮名や返り点などの訓点の数々。国語学以外の日本書紀を読む人に向けて書かれた日本書紀の古訓入門として極めて有益な論考。

2 原克昭「中世日本紀」
日本書紀は中世にどのように解釈されたのか、その神話はどのように発展、拡大していくのか、「幻視」された古代とは何か。中世日本紀の世界を紹介し、今後の研究展望をも見通した一考。

3 平沢卓也「吉田家と日本書紀―吉田兼倶の神代巻講釈を中心に―」
諸々の古典籍を書写し伝えた吉田家は、中でも日本書紀を研究し自説を展開した。日本書紀研究に欠かせない吉田神道家のなかでも兼倶に注目し、その思想的特質を描く。

コラム 石田実洋「慶長勅版の神宮献納」
近世初期に後陽成天皇の主導で出版された慶長勅版の内、日本書紀神代巻は伊勢神宮をはじめとする諸神社に奉納された。本稿は神宮への神代巻奉納に関する新たな知見を示す。

コラム 松本丘「垂加神道における日本書紀研究」
近世垂加神道で重視された書物の一つ、日本書紀神代巻に関し、垂加神道はどのような註釈書を著し解釈をほどこしていたのか。近世における日本書紀の展開に迫る。

コラム 湯淺幸代「源氏物語と日本書紀」
紫式部の著したとされる源氏物語は日本書紀とどのような関係にあったのか。源氏物語に窺える神話の世界を叙述した文学論。

 

付  録

1 日本書紀訓点本諸本一覧(是澤範三)
訓点の付された日本書紀の写本は、どれくらいあるのか。また全30巻のうちどの巻の写本が現存するのか。現存する日本書紀の写本を時代順に並べ一覧表で提示。

2 日本書紀関係記事史料集
日本書紀の編纂、受容に関わる一次史料のなかから、重要なものを選び原文と読み下し文を掲載。どのような史料が残っているかを一望できる。この史料集を読み解いて、日本書紀の謎解きにチャレンジ。

3 日本書紀研究文献目録(抄)(関根淳)
膨大な日本書紀研究のなかで、どの文献を読めば良いのか。論文、著書の中からテーマごとに選りすぐりの文献55点を選び、各文献ごとに読みどころ、意義などのコメントを付す文献ガイド。

4 日本書紀写本の複製一覧―影印本・ウェブ画像―
古来、日本書紀はたくさんの写本が書き写されてきたが、どうすればみることができるのか。これまで出版されてきた影印(写真)複製本やウェブ公開されている写本画像を、写本ごとにまとめたアクセスガイド。


詳細はこちら
遠藤慶太・河内春人・関根淳・細井浩志編
『日本書紀の誕生―編纂と受容の歴史―』
https://catalogue.books-yagi.co.jp/books/view/2174